
人手不足が深刻化するなか、記録やシフト、訪問スケジュールの作成に追われ、本来のケアに割く時間が足りない。そうお悩みの訪問看護ステーションや訪問介護事業所の経営者・ご担当者様も多いのではないでしょうか。
その解決策として注目されているのが介護DXです。国も生産性向上を重点施策に掲げており、テクノロジーの活用は事業を持続させるための経営課題になりつつあります。ただし「何から始めればよいのかわからない」という声も少なくありません。
本記事では、何から着手すべきか判断に迷いがちな介護DXについて、実務で押さえておきたいポイントを解説します。まずは全体像を確認し、無理なく始められる取り組みの糸口を見つけていきましょう。

介護DXとは、デジタル技術で業務のあり方そのものを変え、効率化とサービスの質向上を同時に目指す取り組みです。ここでは、その定義と、いま在宅ケアの現場で取り組みが求められている背景を解説します。
DX〈デジタルトランスフォーメーション〉とは、デジタル技術を使って業務プロセスや組織のあり方を変革し、新たな価値を生み出すことを指します。介護分野では、ICT〈情報通信技術〉やロボット、センサーなどを活用して業務効率化とケアの質向上を図る取り組みが介護DXと呼ばれます。
単なるデジタル化との違いは、変化の深さにあります。紙の記録をデータに置き換えるだけの取り組みはデジタル化にとどまりますが、そのデータを情報共有や経営判断に生かし、働き方や運営の仕組みまで見直す段階に進んで初めてDXと呼べます。
たとえば、訪問記録をその場でタブレットに入力し、事業所や多職種とリアルタイムに共有する。一日の動きをデータで管理し、ムダな移動やアイドリングタイムを減らす。こうした業務そのものの作り替えが、介護DXの本質といえます。
介護DXが急がれる最大の理由は、深刻な人手不足です。厚生労働省によると、訪問介護を担うホームヘルパーの有効求人倍率は令和5年度(2023年度)で14.14倍にのぼり、4倍前後である施設介護職員を大きく上回る、際立って高い水準にあります。
さらに同省は、2040年度には約57万人の介護職員が新たに必要になると推計しています。人材を増やすだけでの解決は難しく、限られた人員で質を保つための生産性向上が避けられません。
実際に、訪問介護事業所の倒産件数は近年増加傾向にあり、人材確保の難しさが経営を直接圧迫しています。採用だけに頼るのではなく、業務のムダを省いて一人あたりの生産性を高める視点が欠かせません。
人手不足の背景や対策は、看護師の人手不足への対応策 ~原因や課題、現場へ影響までを徹底解説~で詳しく解説しています。
制度面でも後押しがあります。2027年度(令和9年度)に予定される次期介護報酬改定に向け、社会保障審議会では2026年から議論が本格化しており、ICTの活用を含む生産性向上が分野横断のテーマに位置づけられています。
訪問看護・訪問介護には、移動を伴う訪問、一人での訪問による不安、複雑なシフト、稼働率の管理といった在宅特有の課題があります。施設とは異なるこうした負担こそ、DXで優先的に解決すべき領域です。

介護DXで使われる技術は多岐にわたりますが、在宅ケアでは特に記録とスケジュールの効率化が中心になります。主な技術と解決できる課題を、次の表にまとめました。
技術分類 | 代表的なツール・技術 | 解決できる課題 |
記録・情報共有 | 介護ソフト・電子カルテ、タブレット、スマートフォン | 記録・申し送り・請求の一元化、二重入力の削減 |
見守り・センサー | 見守りセンサー、バイタル測定機器 | 状態確認や夜間巡視の負担軽減(主に施設・入居系) |
コミュニケーション | インカム、ビジネスチャット | リアルタイムな連絡・情報伝達 |
スケジュール・ルート | 訪問スケジュール・ルート自動作成システム | シフト・訪問計画・移動ルート作成の工数削減 |
経営の可視化 | 経営ダッシュボード | 稼働率・訪問件数などの数値把握 |
記録や申し送り、請求までを一元化するのが記録・情報共有系のツールです。訪問介護では介護ソフト、訪問看護では電子カルテと呼ばれ、同じ役割を担います。
紙や口頭に頼っていた情報を電子化することで、二重入力や転記の手間が減り、多職種間での共有もスムーズになります。クラウド型のツールであれば、管理者と現場スタッフが同じ情報をどこからでも参照でき、電話やFAXでのやり取りも減らせます。
請求業務の電子化については、訪問看護のレセプト業務の完全ガイド:複雑な請求ルールと最新のオンライン化に対応するで詳しく解説しています。
ご利用者様の状態を離れた場所から把握する見守りセンサーや、職員間の連絡を効率化するインカムも、介護DXを構成する技術です。ただしこれらは入居・施設系のサービスで効果を発揮しやすく、訪問が中心の在宅ケアでは活用の場面が限られます。
在宅では、こうした機器よりも記録やスケジュールのデジタル化のほうが、優先度の高い取り組みになります。とはいえ、24時間の定期巡回・随時対応型サービスなど、在宅でも見守りや通報の技術が生きる場面はあります。自事業所のサービス形態に合わせて必要な技術を見極めることが大切です。
在宅ケアのDXで中核となるのが、訪問スケジュールや移動ルートの作成です。訪問看護・訪問介護では、ご利用者様ごとの希望時間、職員のスキルや勤務シフト、担当者の固定やチーム制、移動効率といった複雑な条件を同時に満たす必要があります。
これらを手作業で組むと膨大な時間がかかりますが、条件をもとに自動で作成するシステムを使えば、作成にかかる工数を大きく削減できます。具体的な進め方は、訪問介護のスケジュール管理 ~デジタルツールの活用でスケジュールの悩みを解決~もあわせてご覧ください。
担当者の急な休みや新規の依頼が入った場合でも、条件を反映して素早く組み直せるため、変更対応にかかる負担も軽くなります。移動効率まで考慮したルートを自動で組めれば、一日に回れる訪問件数の確保にもつながります。

介護DXに取り組むことで、事業者は業務負担の軽減から経営改善まで、複数のメリットを得られます。ここでは代表的な4つを解説します。
記録やシフト、訪問ルートの作成といった間接業務をデジタル化すると、これらにかかる時間を削減できます。生み出された時間を訪問やケア、教育に振り向けることで、限られた人員でも生産性の向上が期待できます。業務改善の具体策は、看護業務改善の完全ガイド|人手不足を解消しケアの質を高めるステップで紹介しています。
記録や申し送りをデータで共有できるようになると、事業所内はもちろん、医師やケアマネジャー〈介護支援専門員〉など多職種との連携も円滑になります。最新の状態をリアルタイムに把握できれば、緊急時の判断や訪問手配も迅速に行えます。
訪問先で得た情報がすぐに事業所へ届けば、状態変化への対応も早まります。紙の記録を持ち帰って転記する運用と比べ、対応のスピードと正確さの両面で差が生まれます。
業務負担が軽くなり、直行直帰など柔軟な働き方を支える環境が整うと、職員が働きやすくなり、定着支援につながります。働きやすさは採用面でも事業所の強みとなり、人手不足への対策として有効です。
訪問実績やスケジュールのデータを集計・可視化すると、稼働率や訪問件数、移動時間といった経営数値を客観的に把握できます。数値に基づく運営は、生産性向上に関する加算などの取得体制づくりにも役立ちます。
介護報酬でも生産性向上の取り組みを評価する動きが強まっています。日々の実績を数値で残せる体制は、加算の要件確認や体制整備を進めるうえでの土台になり、スタッフの負荷を客観的に把握して公正な評価につなげることもできます。

ここでは、在宅ケア事業者が当社の訪問スケジュール・訪問ルートの自動作成クラウド『ZEST』を導入し、介護DXに取り組んだ実際の事例を紹介します。
訪問介護のホームヘルパーステーション花紬(社会福祉法人いろどり福祉会)では、導入前はスプレッドシートと手作業で予定を組み、介護ソフトへの転記も含めて月に30時間以上を事務作業に費やしていました。作成が管理者に集中する属人化や、日々の残業も大きな課題でした。
ZESTの導入後は、職員のスキルや移動時間をふまえた訪問スケジュールを自動で作成し、介護ソフトへの反映もボタン一つで完了できるようになりました。予定に関わる時間を約80%削減でき、スマートフォンから外出先でも調整できるため、無駄な移動を減らすための自発的な連携も現場に生まれています。同事業所は、厚生労働省の生産性向上に関する効果測定事業にも参加しています。
関連記事:訪問看護のスケジュール管理|アプリを活用して効率化を実現しよう
訪問介護を手がける社会福祉法人真愛の家では、スケジュール上の空き枠が把握しづらく、新規依頼への即答や訪問の抜け漏れ防止に不安を抱えていました。
ZESTで時間帯ごとの混み具合や空き枠が視覚的に見えるようになり、新規の依頼にもすぐ受入可否を判断できるようになりました。その結果、新規受入件数は約2割増え、スケジュールの抜けに対する不安も軽減し、ケアマネジャーからの信頼にもつながっています。
事例詳細:社会福祉法人真愛の家様の導入事例

介護DXは、やみくもにツールを導入しても成果につながりません。ここでは、着実に進めるための手順とポイントを解説します。
最初に行うべきは、自事業所のどこに負担や無駄が生じているかを把握することです。記録に時間がかかっているのか、シフト作成が特定の担当者に依存しているのかなど、課題を明確にすることで、優先して取り組むべき領域が見えてきます。
課題が曖昧なまま高機能なツールを導入すると、使いこなせずに形骸化しがちです。まずは現状の業務フローを書き出し、時間のかかっている作業を可視化するところから始めましょう。
いきなり全業務をデジタル化するのではなく、効果の大きい領域から小さく始めるスモールスタートが有効です。あわせて、現場の職員が無理なく使えるかを、操作性やサポート体制の面から見極めてツールを選びます。
最初から多くの機能を求めず、記録かスケジュールのどちらか、負担の大きい業務に絞って導入すると、現場の抵抗も少なく効果を確認しやすくなります。うまくいった手応えが、次の領域へ広げる推進力になります。
導入して終わりにせず、削減できた時間や増えた訪問件数などを測定し、費用対効果を確認します。あわせて、職員向けの研修で使い方を定着させることが、投資を成果に変える鍵になります。
補助金を活用する場合、導入後の効果報告が求められることも多いため、導入前後の数値を記録しておくと、申請や継続の判断に役立ちます。
介護DXでよくある失敗の一つが、既存の業務をそのままシステムに置き換えようとすることです。非効率な手順ごとデジタル化しても効果は限られるため、業務そのものの見直しとあわせて進めることが重要です。
もう一つは、通信環境の整備不足や職員間のITスキルの差を放置することです。Wi-Fi環境を整え、研修やサポートでスキル差を埋めることで、ツールが定着しやすくなります。

介護DXの導入コストは、国や自治体の補助金・助成金で軽減できる場合があります。代表的な制度を次の表にまとめました。
制度・事業名 | 主な対象 | 補助率・上限の目安 | 確認先 |
介護テクノロジー導入支援事業 | 介護ロボット・介護ソフト・インカム・Wi-Fi等の導入 | 補助率2分の1〜4分の3(要件充足時)。パッケージ型は上限400万〜1,000万円程度 | 各都道府県の介護・高齢者福祉担当課 |
デジタル化・AI導入補助金(経済産業省) | 介護ソフトなどITツールの導入・クラウド利用料 | 導入費用の一部(申請枠により異なる) | デジタル化・AI導入補助金事務局・デジタル化・AI導入支援事業者 |
人材開発支援助成金(厚生労働省) | DX関連研修など職員の人材育成 | 訓練経費・賃金の一部 | 都道府県労働局・ハローワーク |
介護テクノロジー導入支援事業は都道府県が実施主体で、補助率や上限額、公募時期は自治体によって異なります。訪問看護・訪問介護などの在宅系サービスが対象となるかは事業ごとに異なり、ケアプランデータ連携システムの利用が要件とされる場合もあります。
バックオフィス業務の効率化にはIT導入補助金、職員研修には人材開発支援助成金というように、目的に応じて制度を使い分ける、あるいは組み合わせて活用することも可能です。
補助金は年度ごとに要件が見直されるため、申請を検討する際は、必ず所在地の自治体や各制度の最新の公募要領を確認してください。

介護DXは、深刻な人手不足と制度改定を背景に、在宅ケア事業者にとって避けて通れないテーマになっています。記録やスケジュールのデジタル化から小さく始め、効果を測定しながら定着させることで、限られた人員でも質の高いサービスを続けられる体制づくりが進みます。
特に訪問看護・訪問介護では、複雑な訪問スケジュールと移動ルートの作成が大きな負担となります。この領域からDXに着手することが、成果を実感しやすい第一歩になるでしょう。
訪問スケジュール・訪問ルートの自動作成クラウド『ZEST SCHEDULE』は、ご利用者様の希望時間や職員のスキル・勤務シフト、担当者の固定やチーム制、移動効率といった訪問特有の複雑な条件をもとに、最適な訪問スケジュールを自動で作成します。Googleマップと連携して効率的な移動ルートも自動で算出するため、作成にかかる時間や管理者の負担を軽減し、スケジュールにゆとりを生むことが可能です。
現場では、スタッフ向けモバイルアプリ『ZEST HUB』が、その日の訪問予定や移動時間、空き時間、ご利用者様の申し送りをスマートフォンから確認できるようにします。関連ツールへの遷移もスムーズで、直行直帰や空き時間を活かした生産性の高い働き方を支援します。
さらに『ZEST BOARD』では、訪問件数や訪問時間、移動時間、稼働率、アイドリングタイムといった経営数値を自動で集計・可視化します。独自のアルゴリズムで算出するスタッフ負荷指数もあわせて把握でき、数値にもとづく運営や公正なスタッフ評価に役立てられます。
ZESTは在宅ケアの現場で1,200事業所以上に導入されています。煩雑なスケジュール業務を仕組みで支えることで、経営者・管理者が本来注力すべき運営やケアの改善に時間を使える体制づくりを後押しします。
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