
事業計画書の作成、法人設立の手続き、指定申請に必要な書類の準備、看護師の採用活動。訪問看護ステーションの立ち上げには、開業までにこなすべき準備が数多くあります。何から着手すればよいか、全体像がつかめずに迷う開業検討者の方も多いのではないでしょうか。
訪問看護の需要は高まり続けており、事業所数は増加が続いています。一方で、開業しても廃止・休止に至る事業所は毎年一定数あり、早期の廃業につながるケースも少なくありません。計画的な準備が、安定した立ち上げの分かれ目になります。
本記事では、これから訪問看護ステーションを立ち上げる方に向けて、開業までに踏むべきステップを順を追って解説します。つまずきやすいポイントを押さえながら、まずは立ち上げの全体像から確認していきましょう。

訪問看護ステーションの立ち上げとは、法人を設立し、都道府県または市の指定を受けて、在宅の療養者へ看護を提供できる体制を整えることを指します。ここでは、事業の全体像をつかむために、役割と市場の動向を確認します。
立ち上げそのものに、特別な資格は必要ありません。訪問看護は個人では開業できず、株式会社や合同会社などの法人格の取得と、人員・設備・運営の指定基準を満たすことが要件です。ただし、事業所を管理する管理者には、看護師または保健師の資格が求められます(後述)。
訪問看護ステーションは、主治医やケアマネジャー(介護支援専門員)と連携しながら、ご利用者様の自宅で療養生活を支える事業所です。看護師・准看護師・保健師のほか、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士が在籍し、医療的ケアからリハビリテーションまで幅広く担います。
提供するサービスは、医療保険と介護保険のいずれで提供するかによって対象者や主治医の指示の扱いが変わります。主な内容は次のとおりです。
区分 | 主なサービス内容 |
医療的ケア | 病状観察・バイタルチェック、点滴・注射の管理、褥瘡(じょくそう)処置、服薬管理、医療機器の管理 |
日常生活の援助 | 清拭・入浴介助、排泄援助、食事のケア |
専門的ケア | ターミナルケア、認知症ケア、リハビリテーション、ご家族への支援 |
訪問看護の需要は拡大が続いています。一般社団法人全国訪問看護事業協会の調査によると、2026年(令和8年)4月1日時点の全国の訪問看護ステーション稼働数は20,051件で、前年から1,297件増えました。事業所数は2010年の調査開始以来、一貫して増加しています。同協会がまとめた利用者数の推移でも、訪問看護を利用する方は2013年の約41.8万人から2020年には約94.3万人(医療保険・介護保険の合算)へと、約2.2倍に増えています。
ただし、拡大の裏側では二極化も進んでいます。同協会の調査では、令和7年度(2025年度)中に新規開設された事業所が2,428件に上る一方、廃止960件・休止328件と、開業しても続けられない事業所が少なくありません。需要の追い風だけを頼りにせず、開業前の準備と資金計画で差がつく局面だといえます。
参考:全国訪問看護事業協会「訪問看護ステーション数調査結果」

訪問看護ステーションの開業までには、事業計画から指定申請まで複数の手続きが必要です。ここでは、立ち上げの流れを8つのステップに分けて解説します。予定どおりに開業できるよう、各手続きの順序と準備物を早めに把握しておきましょう。
最初に、開設予定地域の特性を調べます。既存の訪問看護ステーション数、病院や診療所などの医療機関数、福祉サービスの供給量を確認し、開業後のご利用者様の見込みや連携先を把握します。これらをもとに、会社・事業の概要、創業の動機、人員配置、開業資金、資金調達方法、収支計画などを盛り込んだ事業計画書を作成します。事業計画書は、後の融資審査や指定申請でも使う重要な書類です。
訪問看護は、介護保険・医療保険の指定を受けて運営するため、法人格が必須です。株式会社や合同会社のほか、医療法人・社会福祉法人・NPO法人でも運営できます。新たに設立する場合は、法務局で商業・法人登記の手続きを行います。法人形態によって設立費用や設立までの期間が異なるため、事業規模に合わせて選びましょう。
設備資金と運転資金を合わせると、立ち上げにはまとまった資金が必要です。金額の目安と内訳は後半で解説します。自己資金だけで足りない場合は、取引金融機関や日本政策金融公庫からの融資を組み合わせて確保します。
サービス提供地域が決まったら、事務や待機の拠点となる事務所を契約します。介護保険の設備基準に事務所の広さの定めはありませんが、事業運営に必要な広さと、利用申込の受付・相談に対応できるスペースが求められます。
運営に必要な設備・備品を手配します。一般的に必要なものは次のとおりです。
・ 手洗い設備、訪問用の車両
・ 事務用デスク・チェア、書棚、ロッカー、パーテーション
・ パソコン・モニター、タブレット・スマートフォン、電話機、プリンター
・ 医療用保管庫、感染対策用品、医療廃棄物の収納容器
開設には、保健師・看護師または准看護師を常勤換算で2.5人以上配置する必要があります(うち1名は常勤)。指定申請までにこの基準を満たすため、少なくとも3人以上(自身が看護師として従事する場合は2人以上)の採用が求められます。採用には時間がかかるため、早めに動き始めることがポイントです。人員基準の詳細は後述します。
必要書類を整えたら、指定権者(都道府県または市)へ指定申請を行います。指定申請書に加え、登記簿謄本、勤務体制一覧表、資格証や雇用契約書の写し、管理者の免許証の写し、事業所の平面図、運営規程、介護給付費算定に係る体制等に関する届出書などを提出します。申請期限は自治体ごとに異なるため、開業スケジュールに合わせて早めに確認しましょう。
指定申請の手続きや期間は自治体によって差があります。たとえば東京都では、申請の前に管理者(または法人代表者)が受講する新規指定前研修が設けられており、開設予定月のおよそ4か月前までに申込みが必要です。指定は申請が受理された月の翌々月1日付となるのが一般的で、自治体によっては事前協議を求められる場合もあります。書類の準備期間も含めると数か月単位の余裕が必要になるため、開業希望日から逆算して動きましょう。
参考:東京都福祉局「訪問看護・介護予防訪問看護(新規に指定を受けたい方へ)」
開設基準と業務開始までの流れは、訪問看護の開設基準とは?業務開始までの流れも解説でも詳しく解説しています。
指定とあわせて、算定する加算の体制届(介護給付費算定に係る体制等に関する届出書)を提出します。緊急時訪問看護加算や特別管理加算などは、体制を届け出て初めて算定できます。また、業務継続計画(BCP〈事業継続計画〉)や虐待防止・身体的拘束等の適正化に関する体制整備も、運営基準上求められます。これらを整えたうえで、指定通知書に記載された指定年月日から事業を開始できます。

訪問看護ステーションの指定を受けるには、厚生労働省令で定められた人員・設備・運営の3つの基準を満たす必要があります。
区分 | 基準の要点 | 補足 |
人員 | 保健師・看護師・准看護師を常勤換算2.5人以上(うち1名は常勤) | 管理者は常勤・専従の保健師・看護師(准看護師は不可)/理学療法士等は必要時に配置 |
設備 | 事業運営に必要な広さの専用区画、相談スペース、手洗い設備 | 事務室は専用区画(パーテーション等で区分) |
運営 | 説明と同意、提供拒否の禁止、主治医との連携、訪問看護計画書・報告書の作成、緊急時対応、秘密保持 など | 令和6年度からBCPの策定等が義務化 |
人員基準の中心は、看護職員を常勤換算で2.5人以上配置することです。常勤換算とは、従業者の勤務延べ時間を、常勤者が勤務すべき時間(週32時間を基本)で割って人数に換算する方法です。管理者は、訪問看護などの業務経験を持つ常勤・専従の保健師または看護師が務めます。なお、准看護師は管理者になることはできません。管理者は、業務に支障がない範囲であれば、同一敷地内の他事業所などとの兼務も認められています。
常勤換算の具体的な計算方法は、訪問看護ステーションにおける人員基準って?常勤換算の算出方法も解説で確認できます。
設備面では、事業運営に必要な広さを持つ専用の区画が求められます。事務室は部屋の一画では認められず、パーテーションなどで明確に区分します。相談者のプライバシーに配慮した相談スペースと、感染予防のための手洗い設備(石けん・消毒液等)も必要です。
運営基準は確認する項目が多く、内容・手続の説明と同意、提供拒否の禁止、主治医との連携、訪問看護計画書・報告書の作成、緊急時対応、秘密保持、事故発生時の対応などが定められています。令和6年度からは、業務継続計画の策定や虐待防止の体制整備も求められます。
参考:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準(e-Gov法令検索)
指定基準を満たすことに加え、開業前に整えておくと安心なものがあります。ここでは、見落とされがちな2つの準備を解説します。
訪問看護では、ケア中の事故や物損、個人情報の取り扱いなど、賠償リスクを伴う場面があります。万一に備え、事業者向けの賠償責任保険への加入を開業前に検討しておきましょう。業界団体が会員向けに保険を案内している場合もあり、補償範囲や保険料を比較して選ぶことが大切です。
訪問看護の収入は、介護報酬・診療報酬の請求(レセプト=介護給付費明細書/診療報酬明細書)を通じて得られます。請求業務や記録を効率化するため、電子カルテや請求ソフトを開業時に選定しておくと、その後の運用がスムーズです。
ご利用者様やスタッフが増えてからデジタル化に移行するより、開業時から仕組みを整えるほうが移行の負担を抑えられます。訪問スケジュールの作成を自動化するツールとあわせて検討すると、立ち上げ初期の事務負担の軽減が期待できます。

立ち上げには、設備資金と運転資金の両方が必要です。ここでは、初期費用と運転資金の目安、そして資金調達の方法を解説します。
開業資金の総額は情報源によって幅がありますが、目安として500万〜1,000万円程度とされます(事業規模・地域・車両の有無で変動します)。主な初期費用の内訳は次のとおりです。
項目 | 目安金額 | 備考 |
法人設立費用 | 約10〜25万円 | 合同会社は約10万円〜、株式会社は約25万円〜、NPO法人はほぼ0円 |
指定申請手数料 | 3万円程度 | 自治体により異なる |
事務所の初期費用 | 100万円以上のことも | 仲介手数料・敷金・礼金・改修費など |
設備・備品 | 約50〜100万円 | 事務机・PC・通信機器・感染対策用品など |
車両(社用車) | 1台あたり数十万〜約200万円 | 訪問用。新車・中古や台数で変動。ロゴ印刷等は別途 |
採用費・広告宣伝費 | 数十万円〜 | 求人広告・パンフレット作成など |
介護報酬・診療報酬は、サービス提供の約2〜3か月後に入金されます。開業直後は訪問件数も少なく、収入が入るまで時間差があるため、家賃や人件費をまかなう運転資金を用意しておく必要があります。目安は約半年分で、200万〜300万円程度が想定されます。
費目 | 目安 |
人件費 | 3〜5か月分を確保 |
家賃・固定費 | 3か月分以上 |
運転資金の総額目安 | 約200〜300万円(約半年分) |
資金調達は、自己資金に加え、金融機関や公的機関の融資を組み合わせるのが一般的です。特に日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」(旧・新規開業資金)は、創業期でも利用しやすい公的融資で、融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)です。原則として無担保・無保証人で利用でき、制度の詳細は公庫の公式ページで確認できます。
融資の審査対策や、返済不要の助成金・補助金の活用は、訪問看護の資金調達マニュアル|公庫の審査対策と助成金リストで詳しく解説しています。

開業できても、経営が続かなければ意味がありません。ここでは、廃業を防ぐために押さえたい4つの注意点を解説します。
廃業の大きな要因は資金繰りです。開業初月から訪問枠が埋まることはまれで、入金までのタイムラグもあります。運転資金を余裕を持って確保し、収入が安定するまでの数か月を乗り切れる資金計画を立てておきましょう。
訪問看護は人材確保が難しく、離職を防ぐ環境づくりが欠かせません。直行直帰や時短勤務、フレックス制度など多様な働き方を用意すると、採用・定着につながります。一人での訪問が多く孤独を感じやすいため、カンファレンスや定期面談でコミュニケーションを取りやすくする工夫も大切です。
介護報酬・診療報酬は定期的に改定されます。現行は2024年度(令和6年度)改定が基準ですが、2026年(令和8年度)には処遇改善を目的とした臨時改定(期中改定)が行われ、全体で+2.03%の引き上げが決まりました。うち処遇改善分は2026年6月に施行され、訪問看護は介護職員等処遇改善加算の対象に新たに加わっています。
次の通常改定は2027年度(令和9年度)に予定されており、制度変更に対応し続けるには、医療の知識とは別に経営の知識が欠かせません。
黒字化に向けた経営者・管理者の役割は、訪問看護の経営|経営者の役割から黒字化のポイントまでまとめて解説で解説しています。

訪問看護では、訪問スケジュールの作成やレセプト、記録などの事務作業が、ご利用者様やスタッフの増加とともに膨らみます。開業時からICTを導入しておくと、規模拡大後の移行負担を抑えられます。
実際に、当社の訪問スケジュール自動作成クラウド『ZEST』を導入したケアプロ訪問看護ステーション東京 足立ステーション様では、毎日3〜4時間かかっていたスケジュール作成の時間が削減され、残業がゼロになりました。管理者がスケジュール調整に費やしていた時間を、スタッフの状況やご利用者様の困りごとに向き合う時間に充てられるようになっています。開業初期から仕組みを整えることで、限られた人員でも無理のない運営が可能になります。
導入事例:ケアプロ訪問看護ステーション東京 足立ステーション様

訪問看護ステーションの立ち上げは、事業計画の作成から法人設立、資金の確保、指定申請までを計画的に進めることが成功の鍵です。需要は伸び続けていますが、開業後に廃業へ至る事業所も少なくありません。開業前の準備と資金計画、そして開業後の運営体制づくりを丁寧に行うことで、安定した経営に近づけます。
立ち上げ初期は、限られた人員で多くの準備をこなす時期です。在宅ケア事業者向けに訪問スケジュール・ルートの自動作成クラウドを提供する『ZEST』では、訪問看護向けのZEST SCHEDULEが、ご利用者様の希望時間や職員の勤務条件、移動効率を考慮した予定を自動で作成し、開業初期の作成工数の軽減を支援します。
開業後は、稼働率や訪問件数などの経営数値を把握することが黒字化への近道です。経営指標を自動で可視化する『ZEST BOARD』は、訪問件数・移動時間・稼働率などをグラフ化し、データに基づく運営判断を支援します。立ち上げから運営までを一つの流れで捉えると、必要なツールの見極めもしやすくなります。
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