
日々の訪問スケジュールの作成や請求業務、スタッフのシフト調整に追われ、経営全体を見渡す時間がなかなか取れない。そんな状況にお悩みの訪問看護ステーションの経営者・管理者様も多いのではないでしょうか。
訪問看護の需要は高まり続けている一方で、事業所間の競争や人材確保の難しさから、廃止・休止に至るステーションもあります。平均で見れば一定の収益性がある事業ですが、すべての事業所が安定して黒字を維持できるわけではないのが実情です。
本記事では、平均値ではなく自事業所の数値をどう見るかという視点で、訪問看護の経営を解説します。数字の背景にある現場の課題まで踏み込むことで、安定運営に向けて何から着手すべきかを判断できます。
訪問看護ステーションの経営を考えるうえで、まず現在の経営実態を数値で押さえておくことが重要です。ここでは、収益性・廃止や休止の動向・事業所数の推移という3つの観点から、訪問看護経営の現状を確認します。
訪問看護の収益性を判断する代表的な指標が、収入に対する利益の割合を示す収支差率です。厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査」によると、令和6年度決算における訪問看護の税引前収支差率は10.3%(物価高騰対策関連補助金を含まない)で、前年度から1.6ポイント低下しました。それでも全介護サービス平均の4.7%を上回る水準で、金額ベースでは35.8万円とされています。
ただし、平均収支差率がプラスであっても、すべての事業所が黒字というわけではありません。同調査のサービス別内訳(令和6年度決算)では、訪問看護の38.2%が赤字となっています。事業所の規模や稼働状況、ご利用者様の人数、人員配置によって収益性には差があり、平均値だけでは個々の経営状況を把握できない点に注意が必要です。
指標 | 訪問看護 | 全介護サービス平均 |
税引前収支差率 | 10.3% | 4.7% |
赤字事業所の割合 | 38.2% | 37.5% |
給与費割合 | 70.1% | ― |
表のとおり、訪問看護は全介護サービス平均を上回る収益性がある一方で、4割近くが赤字であり、収入の7割を給与費が占めます。収益性は人員配置と稼働状況に左右されやすい構造だといえます。
関連記事:訪問看護の売り上げはどのくらい?基本的な算定方法も解説
訪問看護の需要が高まる一方で、事業を続けられずに廃止・休止するステーションも一定数あります。全国訪問看護事業協会「令和8年度 訪問看護ステーション数調査結果」によると、令和7年度中は新規2,428、廃止960・休止328でした。2026年4月1日時点の稼働数は20,051事業所で、開設と撤退が同時に進んでいることがわかります。
なお、「廃業率」という指標で語られることもありますが、同協会が公表しているのは廃止・休止の件数で、廃業率は公式な指標ではありません。そのため、経営実態を把握する際は廃止・休止の件数で捉えるのが正確です。参考として、令和7年4月1日時点の稼働数18,754を分母に単純計算すると廃止は約5.1%、廃止と休止を合わせると約6.9%となりますが、これはあくまで独自の試算です。
参考:一般社団法人全国訪問看護事業協会「訪問看護ステーション基本情報」
撤退の理由も公表されています。全国訪問看護事業協会の調査によると、廃止理由として最も多く挙げられたのは「従業員の確保が困難」で22.7%、次いで「管理職が退職した」17.6%、「利用者が少なく経営維持が困難」14.9%と続きます。収益性の高さだけでは事業の継続が保証されず、人材の確保が経営の前提になることがうかがえます。
出典:厚生労働省「第259回社会保障審議会介護給付費分科会 資料3 訪問看護」
訪問看護ステーションの数は増加が続いています。全国訪問看護事業協会の調査によると、各年4月1日時点の稼働数は次のように推移しています。
時点(各年4月1日) | 稼働している訪問看護ステーション数 |
2010年 | 5,731 |
2020年 | 11,931 |
2024年 | 17,329 |
2026年 | 20,051 |
2010年からの16年間で、稼働数はおよそ3.5倍に増えました。背景には、高齢化の進行に加え、増加する在宅医療の需要に対応するため、国が提供体制の強化を進めていることがあります。
介護保険における訪問看護の利用者数も、全体として増加傾向にあります。第259回社会保障審議会介護給付費分科会の資料では、要支援・要介護度別の利用者数の推移が示されています。また、第9期介護保険事業計画の推計では、訪問看護の利用者数は令和5年度の74万人から、令和22年度には94万人(27%増)まで増えると見込まれています。
出典:厚生労働省「第259回社会保障審議会介護給付費分科会 資料3 訪問看護」
一方で、事業所数の増加は新規参入の増加も意味します。ご利用者様を安定して獲得し、選ばれるステーションであり続けるためには、地域の需要と競合の状況を踏まえた経営が求められます。

需要が高い一方で、訪問看護の経営は難しいと言われます。多くの事業所が直面する課題は、次の5つに整理できます。
課題 | 経営への影響 | 確認・対応の視点 |
人材の確保・定着 | 人員基準割れによる休止・廃止 | 求人倍率の把握、定着施策の整備 |
ご利用者様の獲得 | 訪問件数の減少による売上低下 | 紹介元別の依頼状況の管理 |
人件費・資金繰り | 給与費割合の高さ、入金のタイムラグ | 収支・資金の月次確認 |
訪問以外の業務 | 稼働率の低下 | 移動・記録の効率化 |
多職種連携・緊急対応 | スタッフ負担・離職 | チーム体制の整備 |
いずれの課題も単独で完結せず、人材の不足が訪問件数の減少を招き、売上の低下が資金繰りを圧迫するというように連鎖します。ここでは、5つの理由をそれぞれ解説します。
訪問看護の経営で最も大きな課題の一つが、人材の確保です。日本看護協会「2024年度ナースセンター登録データに基づく分析」によると、訪問看護ステーションの看護師求人倍率は4.54倍で、病院(20〜199床)の3.00倍を上回り、施設種類別で最も高くなっています。
訪問看護ステーションは、保健師・看護師または准看護師を常勤換算で2.5人以上配置する人員基準を満たす必要があります。退職によって人員基準を下回ると、サービス提供体制の維持が難しくなり、休止・廃止につながる可能性があります。
参考:日本看護協会「2024年度 ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析」
訪問看護の売上は、訪問回数や提供時間、保険区分、加算の算定状況などに影響されます。そのため、ご利用者様や訪問件数が減少すると、売上が低下しやすくなります。入院や看取りなどでご利用者様が減ることは避けられず、新規の依頼を継続的に獲得する必要があります。
ご利用者様の多くは、居宅介護支援事業所の介護支援専門員(ケアマネジャー)や地域包括支援センター、医療機関からの紹介によって獲得します。これらの紹介元との関係が希薄になると新規依頼が途絶えるため、継続的な営業活動が欠かせません。
訪問看護経営では、給与費の負担が大きな割合を占めます。令和7年度介護事業経営概況調査では、収入に占める給与費の割合は70.1%となっています。サービス提供に必要な人員を確保しながら、稼働状況とのバランスを管理する必要があります。
また、介護報酬や診療報酬は、サービスを提供してから入金までに一定のタイムラグがあります。開設初期やご利用者様が伸び悩む時期は収入が少なくなりやすいため、運転資金に余裕を持たせた資金繰りの管理が求められます。
訪問看護では、ご利用者様宅への移動時間や記録の作成、多職種との連絡調整など、訪問そのもの以外の業務が多く発生します。移動時間は売上を生まないため、長くなるほど1日に対応できる訪問件数が減り、収益性が下がります。
限られた人員で安定して運営するには、スケジュールを効率化し、訪問以外にかかる時間をできるだけ抑えることが重要です。
アプリを活用した効率化の方法は、「訪問看護のスケジュール管理|アプリを活用して効率化を実現しよう」をご覧ください。
訪問看護は、主治医やケアマネジャー、訪問介護など多くの職種と連携しながら進めます。職種ごとに方針や価値観が異なるため、連携には手間がかかり、現場のスタッフにとって負担になることもあります。
さらに、24時間対応や緊急時の訪問が求められる場面もあり、単独訪問が基本の訪問看護では一人ひとりの負担が大きくなりがちです。負担が偏った状態を放置すると離職につながるため、チームで支える体制づくりが欠かせません。
これらの課題は単独では起きず、連鎖して経営悪化につながります。次のような兆候が自事業所にないか確認してみてください。
・看護師の退職が重なり、受け入れ可能な訪問枠が減少する
・既存のご利用者様の減少後も営業活動を見直さず、訪問件数が回復しない
・楽観的な売上計画を立て、黒字化前に運転資金が不足する
・移動や調整に時間を取られ、人員数に対して訪問件数が伸びない
訪問看護ステーションを安定して運営するには、経営と現場の両面をカバーする必要があります。経営者は事業計画や収支、投資、人材方針を管理し、管理者は人員配置や訪問業務、請求、サービス品質を管理します。小規模な事業所では同じ人物が両方を担うこともあります。ここでは、それぞれが担う5つの役割を解説します。
経営者にまず求められるのは、事業計画にもとづいて収支と資金を管理することです。売上や支出の見通しを立て、実績と照らし合わせながら必要な資金を確保します。特に開設初期は収入が安定しないため、運転資金の残高を把握し、計画とのずれを早めにつかむことが重要です。
スタッフのスキルや希望、ご利用者様の状態をふまえて勤務シフトを組み、訪問スケジュールを作成することは、管理者の中心的な業務です。訪問スケジュールは、移動効率やスタッフの働きやすさ、ご利用者様の希望を反映して作成する必要があり、売上とスタッフの負担の両方に直結します。急な休みや欠員が出た際の再調整も、管理者が担う重要な役割です。
提供したサービスに応じた介護給付費明細書や診療報酬明細書を作成し、国民健康保険団体連合会や社会保険診療報酬支払基金へ請求する業務の管理も欠かせません。あわせて、ご利用者様やご家族からの評価を把握してサービスの質を維持することや、苦情・事故が起きた際に適切に対応することも、管理者が担うリスク管理の一部です。
稼働に空きが出てきた際に、新規のご利用者様を獲得するための営業活動を行うのも経営者・管理者の役割です。居宅介護支援事業所や地域包括支援センター、医療機関などを訪問し、ケアマネジャーや医療ソーシャルワーカー、主治医に自事業所の強みを伝えます。営業だけでなく、日ごろから地域の多職種と関係を築いておくことが、継続的な紹介につながります。
訪問看護は単独訪問が基本のため、スタッフからの相談に応じ、適切に判断して指示を出す現場フォローが重要です。ご利用者様やご家族との関わり方、必要な知識やマナーについて指導することも管理者の役割です。あわせて、研修や同行訪問を通じてスタッフの育成に取り組むことが、定着とサービス品質の向上につながります。

経営実態と課題をふまえ、訪問看護ステーションを安定して運営するための改善ポイントを解説します。まず押さえたいのは、損益がどの要素で決まるかという分解の視点です。
損益に影響する要素 | 確認する内容 |
訪問による収益 | 訪問回数、提供時間、保険区分、算定内容 |
人件費・固定費 | 給与費、車両費、事務所費など |
有効訪問件数 | 移動・記録を含めた1日当たりの訪問数 |
稼働状況 | 空き枠、キャンセル、スタッフ間の偏り |
加算 | 届出状況、算定要件、請求漏れ |
収支差率を追うだけでは打ち手が見えません。表の要素まで分解すると、どの数字が悪化しているかを特定でき、改善の優先順位を判断しやすくなります。
安定経営の第一歩は、経営数値を定期的に把握することです。収支差率や給与費割合、資金繰りの状況を月次で確認し、計画とのずれが生じていないかをチェックします。数値の変化を早めにつかむことで、稼働の低下や人件費の増加といった問題に対して、手遅れになる前に手を打てます。
訪問看護は訪問件数が売上に影響するため、稼働率と1人1日当たりの有効訪問件数を適正な水準に保つことが重要です。ただし、訪問件数は多ければよいわけではありません。件数を無理に増やすとサービスの質やスタッフの負担に影響するため、移動時間や記録にかかる時間を見直しながら、質と件数のバランスを取ることが求められます。
新規のご利用者様を安定して獲得するには、どの紹介元からどれだけ依頼が来ているかを把握し、営業活動を管理することが有効です。紹介の多い居宅介護支援事業所や医療機関との関係を維持しつつ、依頼の少ない紹介元へのアプローチを強化します。紹介元ごとの状況を数値で捉えることで、営業の優先順位を判断しやすくなります。
人材の定着は、人員基準の維持と採用コストの抑制の両面で重要です。スタッフごとの訪問件数や移動時間、負担の偏りを把握し、特定の人に業務が集中しない体制を整えます。負担を客観的な数値で把握できれば、公正な評価や働きやすい環境づくりにつながり、定着率の向上が期待できます。
訪問看護の収益を安定させるには、基本報酬に上乗せされる加算を適切に算定することが有効です。緊急時訪問看護加算や特別管理加算、ターミナルケア加算などは、体制の届出と要件の充足が前提になります。算定要件を正しく確認し、取りこぼしがないように日々の業務のなかで管理することが求められます。
2026年6月1日に施行された令和8年度介護報酬改定(臨時改定・改定率+2.03%)により、これまで対象外だった訪問看護と介護予防訪問看護が、介護職員等処遇改善加算の対象に加わりました。加算率は1.8%で、介護保険分の総単位数に乗じて算定します。医療保険の訪問看護療養費は対象外です。
算定するには、キャリアパス要件と職場環境等要件の充足、またはケアプランデータ連携システムの利用などの令和8年度特例要件を満たす必要があります。要件や届出の期限は事業所の状況によって異なるため、最新の通知で確認してください。
給与費が収入の7割を占める訪問看護にとって、賃金改善の原資が新たに設けられたことは、採用と定着の面でも重要な意味を持ちます。ただし算定できるかどうかは要件の充足と届出しだいのため、自事業所が対象区分を満たしているかの確認が先決です。
なお、加算の名称や算定要件は、介護保険・医療保険の区分によって異なります。令和8年度診療報酬改定では、医療保険の訪問看護についても、同一建物に居住する利用者への評価の細分化や包括型訪問看護療養費の新設などの見直しが行われました。対象となる保険制度の最新の要件を確認したうえで算定することが重要です。
訪問以外にかかる時間を減らすことは、稼働率の向上とスタッフの負担軽減の両方につながります。訪問スケジュールの作成や移動ルートの計算、記録や請求といった業務は、デジタルツールを活用して効率化できます。事務作業にかかる時間を減らすことで、ご利用者様への訪問やスタッフの育成、営業といった経営に必要な業務に時間を充てられます。
ここでは、当社の訪問スケジュール・訪問ルートの自動作成クラウド『ZEST SCHEDULE』を導入いただいた事業所の事例を紹介します。ケアプロ訪問看護ステーション東京 足立ステーションでは、毎日3〜4時間を要していた訪問スケジュールの作成が課題でした。スケジュール作成を自動化したことで、作成にかかる時間が削減され、残業もほぼ解消しています。スケジュールにゆとりが生まれたことで、スタッフ間のコミュニケーションが増えたことも効果として挙げられています。
管理者がスケジュール作成に費やしていた時間を、ステーションの環境づくりやスタッフの状況把握、ご利用者様の困りごとの共有に充てられるようになった点も、経営・管理業務への効果として挙げられています。
事例詳細:ケアプロ訪問看護ステーション東京 足立ステーション様の導入事例

訪問看護は、平均で見れば一定の収益性がある事業です。一方で、赤字の事業所も一定数あり、人材の確保やご利用者様の獲得、資金繰りの管理といった課題を乗り越えられるかどうかで、経営の安定度は大きく変わります。収支差率や給与費割合といった経営数値と、稼働や訪問件数といった現場の状況の両方を把握し改善につなげることが安定運営の鍵になります。
まず取り組みたいのは、経営数値を月次で確認する仕組みと、訪問以外の業務を効率化する体制づくりです。限られた人員でも無理なく運営できる状態を整えることが、人材の定着とサービスの質の維持につながります。
訪問スケジュール・訪問ルートを自動で作成するZEST SCHEDULEは、スタッフのシフトや資格、ご利用者様との相性、移動効率といった複雑な条件を考慮した予定を作成し、作成や移動にかかる時間の削減を支援します。生まれた時間は、ケアや面談、営業に充てられます。また、経営可視化ダッシュボード『ZEST BOARD』は、訪問件数や移動時間、稼働率などを自動で集計・可視化します。数値にもとづいて稼働状況を把握できるため、営業エリアの検討やスタッフの評価など、経営判断を支援します。
お役立ち情報一覧