
訪問看護ステーションの運営において、レセプト業務は提供したサービスに対する報酬を確実に得るための根幹となる重要な業務です。しかし、訪問看護の請求システムは、医療保険と介護保険という二つの異なる制度が複雑に絡み合い、さらに診療報酬(2年ごと)や介護報酬(3年ごと)の改定が定期的に実施されるため、常に最新のルールを把握しておく必要があります。
この記事では、訪問看護のレセプト業務の基礎から、利用者ごとの保険適用の判断基準、具体的な請求手続き、そして最新の医療保険のオンライン請求の動向と注意点までを詳しく解説します。


レセプト業務とは、訪問看護ステーションが利用者に提供したサービスに対する費用を、代わりに審査支払機関に請求する一連の業務を指します。審査支払機関には、国民健康保険団体連合会(国保連)と社会保険診療報酬支払基金(支払基金)の二つがあり、ここに提出する請求明細書そのものを「レセプト」と呼びます。
訪問看護ステーションの収入は主に医療保険や介護保険から支払われます。利用者に提供したサービスに応じて定められた報酬額のうち、7〜9割を審査支払機関へ、残りの1〜3割を利用者本人に請求します。
訪問看護の報酬は、利用者が適用する保険制度によって、以下の通り区分されます。
項目 | 医療保険(診療報酬) | 介護保険(介護報酬) |
|---|---|---|
報酬の名称 | 診療報酬(訪問看護療養費) | 介護報酬(介護給付費) |
請求先 | 支払基金 または 国保連 | 国保連 |
改定周期 | 2年ごと | 3年ごと |
単位 | 円 | 単位(地域区分で単価が変動) |
医療保険における報酬の構成要素には、訪問看護基本療養費、精神科訪問看護基本療養費、訪問看護管理療養費、各種加算、ターミナルケア療養費などが含まれます。一方、介護保険における介護報酬は、サービス提供の時間区分(20分未満から1時間30分未満の4区分)や提供者の職種によって単位数が定められています。
また、介護報酬の1単位あたりの単価は、ステーションの所在地によって8段階に区分された地域区分(1級地〜その他)により、10円から11.40円まで差があります。

訪問看護の利用者が、医療保険と介護保険を併用することは認められていません。
利用者が要支援または要介護認定を受けている場合、原則として介護保険が優先して適用されます。これは、訪問看護が日常的な療養管理として位置づけられた場合が介護保険の対象となるためです。
要介護認定を受けている方でも、医師の指示に基づき医療的な処置が必要と認められた場合や、特定の状態にある場合は、医療保険が適用されます。
以下のいずれかに該当する場合は、介護保険ではなく医療保険の対象となります。
1. 厚生労働大臣が定める疾病等に該当する場合
末期の悪性腫瘍、多発性硬化症、重症筋無力症、筋萎縮性側索硬化症など、特定の20の難病や状態に該当する場合です。これには、ホーエン・ヤール重症度分類でステージ3以上のパーキンソン病患者も含まれます。
2. 特別訪問看護指示書が交付される場合
利用者の病状が急性増悪したなどの理由で、主治医が一時的に頻回の訪問看護が必要と判断し、「特別訪問看護指示書」を交付した場合、交付日から14日以内は医療保険が適用されます。
3. 精神科訪問看護指示書が交付される場合
認知症以外の精神疾患の利用者に対して「精神科訪問看護指示書」が交付された場合も、医療保険が適用されます。

訪問看護サービスを提供した月の報酬請求は、翌月の1日から10日までに審査支払機関へ提出することが共通のルールです。審査を通過した場合、請求した月の翌月(サービス提供月の翌々月)に報酬が支給されます。
医療保険の請求先は国保連または支払基金です。
1. 請求書と明細書の作成
1か月単位で、訪問看護療養費請求書や訪問看護療養費明細書(様式第四など)を含む、4種類の様式を作成します。明細書には、主治医や医療機関の情報、指示期間などを正確に記載する必要があります。
2. 請求書の提出
サービス提供月の翌月1日〜10日までに、ステーション所在地の国保連または支払基金へ提出します。
3. 審査と返戻
審査機関で審査が行われ、内容に誤りがある場合は返戻としてレセプトが返還されます。返戻された場合は、修正し再請求を行う必要があります。
4. 支給
審査を通過すると、請求月の翌月に診療報酬が支払われます。
介護保険の請求先は国保連です。請求は原則としてインターネット請求(伝送)または磁気媒体で行います。
1. 提供票の作成とケアマネジャーへの実績報告
訪問実績を反映した提供票を作成します。介護保険では、ケアマネジャーが作成する給付管理票に記載された単位数しか認められないため、サービス提供月の翌月月初に実績をケアマネジャーに報告し、単位数が一致しているかを確認し合うことが極めて重要です。
2. 請求書と明細書の作成
1か月単位で、介護給付費請求書(様式第一)と、居宅サービスや介護予防サービスの明細書(様式第二、様式第二の二)を含む3種類の様式を作成します。
3. 請求の提出
サービス提供月の翌月1日〜10日までに、ステーション所在地の国保連へ提出します。
4. 審査
国保連で、訪問看護事業所の明細書とケアマネジャーの給付管理票の突き合わせ審査が行われます。単位数の不一致や情報に誤りがある場合は返戻となります。
5. 支給
審査通過後、請求月の翌月に介護報酬が支払われます。

これまで業務負担が大きかった医療保険のレセプト(紙媒体)提出は、電子化が進められています。
令和6年7月請求分(令和6年6月指定訪問看護実施分)から、訪問看護レセプトの医療保険オンライン請求が開始され、義務化されています。
これにより、請求はオンラインで行うことが原則となり、業務効率化が期待されます。
オンライン請求をスムーズに開始するには、事前の準備が必須です。
1. 請求システムの導入
レセプト作成からオンライン請求、伝送までを一貫して行えるシステムやソフトの導入が必要です。
2. 機器と回線の準備
オンライン請求システムを利用するための専用端末の要件を満たす機器や、ネットワーク回線の準備が必要です。
3. 申請とセキュリティ対策
医療機関等向け総合ポータルサイトからのオンライン請求開始申請や、厚生労働省のガイドラインに沿ったセキュリティ対策規定の策定が求められます。

レセプトは記載項目が多いため、誤りや不備が生じやすく、不備のあるまま提出すると「返戻」としてレセプトが返却されます。返戻が発生すると、修正や再請求が必要となり、報酬の入金が翌月以降に遅れてしまうため、事業所の資金繰りに影響を及ぼす可能性があります。
返戻を最小限にするためには、請求ルールの正確な把握に加え、請求ソフトの活用や、実績入力の抜け漏れを防ぐための体制構築が重要です。
請求できる権利には期限があります。医療保険と介護保険のどちらも、訪問看護費の請求権はサービス提供から2年で消滅します。
ただし、一度支払われた報酬について後から誤請求が発覚した場合、その誤請求は5年前まで遡って返戻の対象となり、修正・再請求の手続きが求められます。
介護報酬は3年ごと、診療報酬は2年ごとに改定されます。この改定では、基本報酬や各種加算の算定ルールが変更されるため、常に最新の情報を確認し、レセプト業務に反映させる必要があります。
また、多くの利用者の情報を手作業で管理すると、確認や転記に時間がかかり、事務業務が煩雑化しがちです。システムを活用し、情報を一元管理することで、業務を効率化し、ミスを削減することが推奨されます。

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訪問看護のレセプト業務は、医療保険と介護保険の複雑なルール、頻繁な制度改定への対応、そして最新のオンライン請求の義務化など、多岐にわたる専門知識を要します。正確なレセプト作成と提出は、提供したサービスに対する報酬を適切に、かつ遅延なく受け取るために不可欠であり、訪問看護ステーションの健全な運営を支える基盤となります。
請求ミスや返戻を最小限に抑えるためには、請求ソフトやICTツールを導入し、業務の効率化と正確性の向上を図ることが重要です。
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最後までお読みいただきありがとうございました。
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