
2024年度の介護報酬改定により、訪問介護の基本報酬が引き下げられました。この改定は、訪問介護事業者の経営に直接的な影響を及ぼすことから、多くの事業者が不安を抱いていることと思います。本コラムでは、基本報酬引き下げの背景、事業所への影響、そして具体的な対応策について解説します。


訪問介護の基本報酬とは、介護事業者が利用者に訪問介護サービスを提供した際、その対価として支払われる介護報酬の基礎となる部分です。
介護報酬は、以下の計算式で算出されます。
(各サービスに設定された単位数)×(1単位あたりの単価)= 事業所に支払われる報酬
この計算式における「単位数」は、サービスの種類や内容によって異なり、基本報酬の額を決定する重要な要素となります。つまり、基本報酬は、サービスの種類や内容、そして単位数によって定まる、介護事業者が受け取るサービス費の基盤となる部分と言えるでしょう。
また、1単位の単価は、サービス・地域別に以下のように定められています。
訪問介護は、①人件費割合70%のサービスに含まれます。
1級地 | 2級地 | 3級地 | 4級地 | 5級地 | 6級地 | 7級地 | その他 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
上乗せ割合 | 20% | 16% | 15% | 12% | 10% | 6% | 3% | 0% |
①人件費割合70%のサービス | 11.40円 | 11.12円 | 11.05円 | 10.84円 | 10.70円 | 10.42円 | 10.21円 | 10円 |
②人件費割合50%のサービス | 11.10円 | 10.88円 | 10.83円 | 10.66円 | 10.55円 | 10.33円 | 10.17円 | 10円 |
⓷人件費割合45%のサービス | 10.90円 | 10.72円 | 10.68円 | 10.54円 | 10.45円 | 10.27円 | 10.14円 | 10円 |

訪問介護の基本報酬の単位数は、以下のように改定されています。
サービス種類 | 時間 | 改定前の単位数 | 改定後の単位数 |
|---|---|---|---|
訪問介護 | 20分未満 | 167単位 | 163単位 |
20分以上30分未満 | 250単位 | 244単位 | |
30分以上1時間未満 | 396単位 | 387単位 | |
1時間以上1時間30分未満 | 589単位 | 567単位 | |
以降30分増すごとに | 84単位 | 82単位 | |
生活援助 | 20分以上45分未満 | 183単位 | 179単位 |
45分以上 | 225単位 | 220単位 | |
身体介護に引き続き生活援助を行った場合 | 67単位 | 65単位 | |
通院等乗降介助 | 99単位 | 93単位 |
このように全てのサービス種類・時間の単位数が下がっていることから、訪問介護の基本報酬が減額されていることがわかります。

廃業数も多い訪問介護事業ですが、なぜ基本報酬が引き下げられたのでしょうか?報酬引き下げの要因を3つご紹介します。
2023年に厚生労働省が発表した「介護事業経営実態調査」の結果、訪問介護事業所の収支差率が他のサービスに比べて高いことが明らかになりました。この結果は、訪問介護事業が他のサービスに比べて、人材不足やサービスの複雑化といった課題を抱えながらも、比較的高い収益性を維持していることを示唆しています。
収支差率の数値が大きいほど、事業所の利益率も高まるため、事業所の経営も良好であることを裏付けるデータとなりました。これらの結果を踏まえ、厚生労働省は、訪問介護の報酬が他のサービスに比べて経営状態が良いと判断し、報酬の適正化を図るために基本報酬を引き下げる措置を取ったと考えられます。
2022年決算時の介護サービスにおける収支差率は以下の通りです。
サービスの種類 | 収支差率 |
|---|---|
介護老人福祉施設 | -1.0% |
介護老人保健施設 | -1.1% |
訪問介護 | 7.8% |
通所介護 | 1.5% |
短期入所生活介護 | 2.6% |
政府は、深刻化する介護職員の人材不足問題に対応するため、介護職員の処遇改善に力を入れています。特に、2024年度の介護報酬改定では、2024年度に2.5%、2025年度に2.0%のベースアップに繋がるように介護職員の賃金を段階的に引き上げるための新たな制度が導入されました。
従来、介護職員の処遇改善には複数の加算制度が存在していましたが、この改定により、これらの制度が一つにまとめられ、よりシンプルな仕組みへと変わりました。新たな制度では、介護施設やサービスの種類、職員の経験年数などを考慮して、4段階の「介護職員処遇改善加算」が設定されています。
主な介護サービスの段階別加算率は以下の通りです。
Ⅰ | Ⅱ | Ⅲ | Ⅳ | |
|---|---|---|---|---|
介護老人福祉施設 | 14.0% | 13.6% | 11.3% | 9.0% |
介護老人保健施設 | 7.5% | 7.1% | 5.4% | 4.4% |
訪問介護 | 24.5% | 22.4% | 18.2% | 14.5% |
通所介護 | 9.2% | 9.0% | 8.0% | 6.4% |
短期入所生活介護 | 14.0% | 13.6% | 11.3% | 9.0% |
介護の他事業に比べると処遇改善加算が高水準となるため、その分を基本報酬で減算することでバランスをとることとしました。
参考:厚生労働省老健局 令和6年度介護報酬における改定事項について
2024年度の介護報酬改定において、厚生労働省老健局が発表した「令和6年度介護報酬における改定事項について」では、介護保険サービス全体の基本報酬の見直しが詳細に記載されています。特に、「大臣折衝事項」の箇所では、介護職員以外の処遇改善を実現するために、基本報酬をプラス0.61%とする措置が明記されています。
出典:厚生労働省老健局 令和6年度介護報酬における改定事項について

訪問介護の基本報酬が引き下げられたことで、訪問介護業界の現場にはどのような影響があるのでしょうか。実際に考えられる影響を3つご紹介します。
2023年の訪問介護事業者の倒産件数は60件に上り、過去最多を記録しています。その背景には、介護職員の不足、物価高、競争の激化といった複合的な要因が挙げられます。特に、介護報酬が公定価格であるため、物価高騰分を価格に転嫁することが難しく、事業者の経営を圧迫しています。
東京商工リサーチの調査では、倒産の原因として「販売不振」が8割を占め、報酬の少なさが大きな要因となっていることが明らかになりました。このような状況下で、基本報酬がさらに引き下げられると、多くの訪問介護事業者が経営難に陥り、倒産に追い込まれる可能性が高まります。
出典:東京商工リサーチ 2023年の『訪問介護事業者』倒産が60件に急増 ヘルパー不足や物価高、競合で過去最多を更新
2022年に発表された、「令和4年度介護労働実態調査」で従業員の過不足状況について、訪問介護の「大いに不足」「不足」「やや不足」と回答した職員が合計83.7%と介護サービス全体よりも17.2%多く、不足感を感じていることがわかりました。
大いに不足 | 不足 | やや不足 | 適当 | 過剰 | |
|---|---|---|---|---|---|
訪問介護職員 | 27.9% | 31.0% | 24.6% | 16.3% | 0.2% |
全体 | 9.2% | 22.5% | 34.6% | 33.3% | 0.5% |
さらに、職種別の従業員数に占める65歳以上の従業員比率について、訪問介護職員は26.3%と圧倒的に数値が高い結果となりました。
これらのことから、訪問介護の基本報酬がさらに引き下げられることで、現場の若い世代の減少と高齢化が進み人材不足が加速してしまうことが考えられます。
出典:公益財団法人介護労働安定センター 令和4年度介護労働実態調査について
先ほども解説した通り、現場の高齢化が進んでいることと少子化で働く世代が減少していることで、需要と供給のバランスが崩れ、介護難民が増加してしまう可能性があります。
日本創成会議の首都圏問題検討分科会が2015年に発表した「東京圏高齢化危機回避戦略」という提言では2025年には入院のニーズが全国で152万人、東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県のみで33万人に上り、介護ニーズが全国で689万人、東京都・埼玉県・千葉県・神奈川県のみで172万人に上るとされています。入院・介護ニーズが高まる一方で、報酬引き下げにより、人手不足や廃業が進むことで、ニーズにこたえきれずに介護難民が生まれてしまいます。

訪問による介護報酬が引き下げになり、ただ訪問件数を増やす対策では限界があります。今回は収益を上げるための対応策を5つご紹介します。
基本報酬が下がった分は、未取得の加算を取得することで介護報酬の改善ができます。2024年度の改正で加算の見直しや区分が新設されたものもあるので、加算できていないものがないか、一度確認してみましょう。
【訪問介護事業所で取得できる加算の例】
・特定事業所加算
・夜間・早朝・深夜加算
・特別地域訪問介護加算
・中山間地域等における小規模事業所加算
・中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算
・緊急時訪問介護加算
・初回加算
・生活機能向上連携加算
・口腔連携強化加算
・認知症ケア加算
・介護職員等処遇改善加算
訪問介護の報酬改定に伴う人材確保のためには、介護職員のモチベーション向上を図る人事制度の整備が不可欠です。具体的には、職員の貢献度を明確にし、評価と処遇を連動させることで、やりがいと安定した働き方を提供することが有効です。
介護職員処遇改善加算を活用することで、資格取得や勤続年数に応じた処遇改善を実現し、働きやすい職場環境を整備することができます。これにより、職員のモチベーション向上と定着率の改善が期待できます。
訪問介護は実際に訪問先でのケアが見えないため、人事評価の基準を作ることが難しいこともあるかと思います。そのような場合には、厚生労働省の「職業能力評価基準」を参考にしてみましょう。職業能力評価基準は、各職種に必要な知識、スキル、そして成果につながる行動を4つのレベル別に示したもので、職員の能力開発や評価に役立ちます。
厚生労働省のホームページには、訪問介護サービスに特化した職業能力シートが公開されています。このシートを活用することで、評価基準の策定がスムーズに進み、より効果的な人事評価制度を構築することができます。
先ほどもご紹介した「介護職員処遇改善加算」では、一定の経験や技能・資格のある職員を一定数以上配置していることで介護事業所に対する加算率が高まります。
具体的には、介護福祉士が職員の30%以上在籍していることで加算率が良くなるため、研修の実施や資格取得の支援を行うことで、資格取得に対する意識の向上を図ることができます。また、採用活動時には、求職者の資格にも着目をして、30%をきらないように気を付けることが重要です。
訪問介護は訪問サービスを行った単位数が収益となるため、まずは職員一人当たりの生産性を向上させ、訪問件数を増やせば収益が上がります。しかし、支出の70%が人件費を占めているため、安易に職員数を増やしても一人当たりの訪問件数が十分でなければ支出を賄うことができません。職員の採用の前にまずは職員一人当たりの生産性を向上し、訪問件数を増やすことで、最低限の支出で収益を上げることが可能になります。
保険外のサービスは、介護保険を利用せずに行われるサービスです。
利用者さんのQOLの向上を目的としており、要介護認定を受けていない高齢者などでも利用できます。保険を利用していないため、利用料金は全て利用者さんの負担になることと介護事業者がサービスの内容や利用料金を自由に設定することができます。もちろん、今回の報酬改正による減算の影響も受けることが無いため、収入の柱を増やすことができ、収益改善の役に立つと思われます。
▽介護保険外サービスには以下のようなものがあります。
・同居家族の洗濯や掃除、料理などの家事援助
・趣味や散歩の外出介助
・冠婚葬祭の付き添い
・お正月などの特別な手間のかかる料理
・ペットのケアサービス
・配食・宅配サービス
・同居家族の洗濯や掃除、料理などの家事援助

目的
訪問介護における特定事業所加算について、看取り期の利用者など重度者へのサービス提供や中山間地域等で継続的なサービス提供を行っている事業所を適切に評価する観点等から見直しが行われました。
概要
算定要件
目的
感染症や災害が発生した場合であっても、必要な介護サービスを継続的に提供できる体制を構築するため、業務継続に向けた計画の策定の徹底を求める観点から、感染症若しくは災害のいずれか又は両方の業務継続計画が未策定の場合、基本報酬を減算する。
概要
施設・居住系サービス:所定単位数の100分の3に相当する単位数を減算(新設)
その他のサービス:所定単位数の100分の1に相当する単位数を減算(新設)
目的
利用者の人権の擁護、虐待の防止等をより推進する。高齢者虐待防止に向けた施策の充実を図る。
概要
高齢者虐待防止措置未実施減算:所定単位数の100分の1に相当する単位数を減算 の新設
算定要件等
虐待の発生又はその再発を防止するための以下の措置が講じられていない場合
・ 虐待の防止のための対策を検討する委員会(テレビ電話装置等の活用可能)を定期的に開催するとともに、その結果について、従業者に周知徹底を図ること。
・ 虐待の防止のための指針を整備すること。
・ 従業者に対し、虐待の防止のための研修を定期的に実施すること。
・ 上記措置を適切に実施するための担当者を置くこと。
目的
用者又は他の利用者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束等を行ってはならないこととし、身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録することを義務付ける
概要
訪問看護の運営基準に以下を規定する。
・ 利用者又は他の利用者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束等を行ってはならないこと。
・ 身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならないこと。
目的
訪問系サービスにおける認知症専門ケア加算について、認知症高齢者の重症化の緩和や日常生活自立度Ⅱの者に対して適切に認知症の専門的ケアを行うことを評価する観点から、利用者の受入れに関する要件を見直す。
概要
・認知症専門ケア加算(Ⅰ) 3単位/日※
・認知症専門ケア加算(Ⅱ) 4単位/日※
※ 定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護(Ⅱ)については、
・認知症専門ケア加算(Ⅰ)90単位/月
・認知症専門ケア加算(Ⅱ)120単位/月
算定要件等
<認知症専門ケア加算(Ⅰ)>
ア 認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ以上の者が利用者の2分の1以上
イ 認知症介護実践リーダー研修等修了者を認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ以上の者が20人未満の場合は1以上、20人以上の場合は1に、当該対象者の数が19を超えて10又は端数を増すごとに1を加えて得た数以上配置
ウ 認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ以上の者に対して、専門的な認知症ケアを実施した場合
エ 当該事業所の従業者に対して、認知症ケアに関する留意事項の伝達又は技術的指導に係る会議を定期的に開催
<認知症専門ケア加算(Ⅱ)>
ア 認知症専門ケア加算(Ⅰ)のイ・エの要件を満たすこと
イ 認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ以上の者が利用者の100分の20以上
ウ 認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲ以上の者に対して、専門的な認知症ケアを実施した場合
エ 認知症介護指導者研修修了者を1名以上配置し、事業所全体の認知症ケアの指導等を実施
オ 介護職員、看護職員ごとの認知症ケアに関する研修計画を作成し、研修を実施又は実施を予定
目的
職員による利用者の口腔の状態の確認によって、歯科専門職による適切な口腔管理の実施につなげる
概要
口腔連携強化加算:50単位/回 の新設 ※月に1回に限り算定可能
算定要件等
①事業所の従業者が、口腔の健康状態の評価を実施した場合において、利用者の同意を得て、歯科医療機関及び介護支援専門員に対し、当該評価の結果を情報提供した場合に、1月に1回に限り所定単位数を加算する。
②事業所は利用者の口腔の健康状態に係る評価を行うに当たって、診療報酬の歯科点数表区分番号C000に掲げる歯科訪問診療料の算定の実績がある歯科医療機関の歯科医師又は歯科医師の指示を受けた歯科衛生士が、当該従業者からの相談等に対応する体制を確保し、その旨を文書等で取り決めていること。
目的
介護現場で働く方々にとって、令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップへと確実につながるよう加算率の引上げを行う。介護職員等の確保に向けて、介護職員の処遇改善のための措置ができるだけ多くの事業所に活用されるよう推進する観点から、介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算、介護職員等ベースアップ等支援加算について、現行の各加算・各区分の要件及び加算率を組み合わせた4段階の「介護職員等処遇改善加算」に一本化を行う。
概要
訪問介護:Ⅰ 24.5%、Ⅱ 22.4%、Ⅲ 18.2%、Ⅳ 14.5%
概要
人員配置基準等で具体的な必要数を定めて配置を求めている職種のテレワークに関して、個人情報を適切に管理していること、利用者の処遇に支障が生じないこと等を前提に、取扱いの明確化を行い、職種や業務ごとに具体的な考え方を示す。
目的
訪問介護において、同一建物等居住者へのサービス提供割合が多くなるにつれて、訪問件数は増加し、移動時間や移動距離は短くなっている実態を踏まえ、同一建物減算について、事業所の利用者のうち、一定割合以上が同一建物等に居住する者への提供である場合に、報酬の適正化を行う新たな区分を設け、更に見直しを行う。
概要
概要
①過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法において、「過疎地域」とみなして同法の規定を適用することとされている地域等が、特別地域加算、中山間地域等の小規模事業所加算及び中山間地域に居住する者へのサービス提供加算の算定対象地域に含まれることを明確化する。
②過疎地域その他の地域で、人口密度が希薄、交通が不便等の理由によりサービスの確保が著しく困難であると認められる地域であって、特別地域加算の対象として告示で定めるものについて、前回の改正以降、新たに加除する必要が生じた地域において、都道府県及び市町村から加除の必要性等を聴取した上で、見直しを行う。
概要
過疎地域その他の地域で、人口密度が希薄、交通が不便等の理由によりサービスの確保が著しく困難であると認められる地域であって、特別地域加算の対象として告示で定めるものについて、前回の改正以降、新たに加除する必要が生じた地域において、都道府県及び市町村から加除の必要性等を聴取した上で、見直しを行う。



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