
訪問介護は、高齢化社会の進展に伴い需要が伸び続けており、事業参入を検討する方にとって非常に重要な分野です。この記事では、訪問介護事業の開業から、収益を最大化し経営を安定させるための戦略までを網羅的に解説します。
訪問介護事業は、他の介護サービスと比較して収支差率(売上に対する利益の割合)が高い傾向にあります。厚生労働省の「令和7年度介護事業経営概況調査」(令和6年度決算)によると、訪問介護の収支差率は9.6%(税引前・物価高騰対策関連補助金を含まない)で、全サービス平均の4.7%を上回っています。
また、独立行政法人福祉医療機構(WAM)の調査(2023年度決算・訪問介護1,896事業所)では、赤字事業所の割合が45.5%にのぼり、前年より2.7ポイント増加しました。収支の平均値だけを見ると安定しているように映りますが、実態は二極化しており、安定した経営を実現するためには戦略的な運営が不可欠であることを示しています。
参考:厚生労働省「令和7年度介護事業経営概況調査結果」
独立行政法人福祉医療機構「調査・研究レポート」
訪問介護の需要は、今後も伸び続けると予測されています。国内の65歳以上の人口は2040年に3,920万人に上ると推計されており、自宅で最期を迎える高齢者も現在の約2倍となる35万人弱に上ると予想されています。生涯未婚率の増加傾向も相まって、身体介護や生活援助を提供する訪問介護への需要は高まると考えられます。
一方で、事業所数は増加傾向にありますが(2023年に3万6,905事業所)、ヘルパー不足が課題となっており、倒産件数も増加しているため、人手不足による倒産リスクなども理解しておくことが大切です。

訪問介護とは、要介護認定を受けたご利用者様本人とそのご家族の日常生活のサポート支援を行う介護保険サービスです。介護福祉士やホームヘルパーがご利用者様の自宅に訪問し、自立支援を目的としたサービスを提供します。訪問介護を利用できるのは「要介護・要支援」と認定された方です。
提供されるサービスは主に以下の3つに分けられます。
1. 身体介護
ご利用者様の身体に直接接触して行うサービスです。食事介助、排泄介助(オムツ交換含む)、入浴介助、更衣介助などがあげられます。ご希望に応じて全てを介護職員が行うのではなく、自立支援の観点から見守りを行うこともサービスに含まれます。
2. 生活援助
ご利用者様に代わって身の回りの援助を行うサービスです。調理、掃除、洗濯、生活用品の買出しなどがあげられます。主にご利用者様が独居の場合や、同居家族が行うのが困難な場合に提供されます。
3. 通院時の乗車降車等の介助(介護タクシー)
介護職員初任者研修以上の資格を持つ者のみ運転が認められています。通院への送迎や役所への申請など、日常生活上または社会生活上必要な外出のみに限定されています。サービス対象者は要介護者のみで、要支援の方は利用できません。
訪問介護事業所の収益は、主に介護報酬で成り立っており、その約9割が社会保障費(税金)で占められています。
売上は以下の計算式で算出されます。
訪問介護事業の収益=(サービスごとの単位数)×(1ヶ月の総合件数)×(地域単価)
介護報酬の1単位あたりの単価は地域によって異なり、「1〜7級地」と「その他」の8種類に分類されています。例えば、1級地(東京都特別区)は11.40円、その他の地域は10.00円となっており、単価は地域によって10円〜11.40円と異なります。
関連記事:訪問介護のサービス提供時間の区分とは? 多様な時間区分に対応するポイントも解説!
訪問介護事業の売上・収益を安定させるためには、基本報酬に上乗せされる「加算」の取得が重要です。加算には、介護職員等処遇改善加算、緊急時訪問介護加算、特定事業所加算などがあります。介護職員等処遇改善加算は、令和6年度改定で従来の3加算が4段階に一本化されました。さらに令和8年(2026年)6月の臨時改定で、対象が介護職員から介護従事者へ広がり、加算率も引き上げられています。訪問介護では、生産性向上などに取り組む上位区分で加算率が最大28.7%に設定されており、体制づくりが収益に直結します。法令や制度は改定で変わるため、常に最新情報を確認しましょう。

ここからは開業の実務を、時系列に沿って解説します。開業までの手続きは「準備」と「指定基準・申請」の2つのフェーズに分かれます。まずは準備フェーズとして、一人で開業できるのかという疑問と、事業計画・法人設立までを確認します。
結論から言うと、訪問介護を一人で開業することはできません。人員基準で、訪問介護員を常勤換算2.5人以上、サービス提供責任者を1人以上、常勤の管理者を1人配置することが定められているためです。
ただし管理者はサービス提供責任者や訪問介護員と兼務でき、サービス提供責任者も訪問介護員を兼ねられます。そのため実務上は、最低3名の有資格者を確保できれば申請が可能です。ご自身が資格を持って現場に入る場合でも、常勤換算2.5人以上を満たすために、ほかに2名以上の人材が必要になります。
「常勤換算」とは、従業者の勤務延べ時間を常勤職員が勤務すべき時間(32時間を下回る場合は32時間が基本)で割って人数に換算する方法です。フルタイム1名に加え、非常勤スタッフの勤務時間を合算して2.5人分を満たす構成も認められます。開業当初は常勤1名+非常勤数名という形が現実的で、まずは知人の有資格者への声かけから採用活動を始めるケースも少なくありません。
訪問介護事業所を設立するために、まずは以下の4点を考え、具体的な事業内容を決定させましょう。
・どのような目的か
・どのようなターゲット層を対象にするのか
・どの程度の規模か
・どのような強みを活かしたサービス提供を行うか
これらを踏まえて、事業を立ち上げる地域やエリアを決め、そのエリア内の高齢者数や要介護者数を算出し、事業の売上予測を立て、事業計画書を作成します。この事業計画書はこの後にご紹介する融資や事業指定を受ける際にも必要になるため、ご利用者様を確保するための営業方針や、利益を出すためにどのくらいの資金がいつまでに必要かという資金計画、いつまでにどの程度の利益を出すのかという収支計画など細かく立案することが必要です。
介護サービスの収入が主となる介護保険事業を開業する場合、法人格を有することが必須条件となります。訪問介護を一人で個人事業として開業することはできず、法人を設立したうえで指定申請へ進みます。
一般的に使われるのは、株式会社・合同会社・NPO法人・一般社団法人の4つです。株式会社は設立に約25万円かかりますが、株式を発行して資金を集めやすく、社会的信用度も高い形態です。合同会社は設立費用が約10万円程度と抑えられ、経営の自由度が高いため小規模な経営に向いています。NPO法人は初期費用がほとんどかからず設立後の優遇もありますが、認証に4〜5ヶ月ほどかかります。一般社団法人は設立費用が約10万円で、非営利型が認められれば優遇措置を継続して受けられます。
準備が整ったら、指定を受けるために基準を満たし、申請へと進みます。指定基準は人員・設備・運営の3つで構成されます。開業の流れの後半として、順番に確認しましょう。
訪問介護の人員基準は、3つの職種で定められています。申請の時点で最低でも3名の有資格者がそろっていなければ、申請そのものができません。
職種 | 必要人数 | 資格要件 |
訪問介護員 | 常勤換算2.5人以上 | 介護福祉士 |
サービス提供責任者 | 1人以上(ご利用者様40人を超えるごとに1人追加) | 介護福祉士 |
常勤管理者 | 1人 | なし |
注意したいのが、サービス提供責任者を旧ヘルパー2級(介護職員初任者研修修了者)が務める場合、介護報酬が10%減算される点です。人員配置は、報酬への影響まで含めて設計しましょう。
人員基準の詳細は、訪問介護ステーションの開設基準を徹底解説!人員・設備・運営の必須要件と開業までの流れで確認できます。
設備基準では、事業の運営に必要な面積を有する専用の区画(事務室・事務スペース)を設け、利用申込の受付や相談に対応するスペースを確保することが求められます。また、感染症予防に必要な手洗い設備の設置も必要です。ご利用者様の情報を守るため、鍵付きのキャビネットも用意しておくと安心です。
そのほか、実務では次のような備品・消耗品も揃えておくとよいでしょう。
備品の例 | 消耗品の例 |
応接セット | 感染対策用品 |
開業初期のコストを抑えるため、自宅を事務所として申請することも可能です。ただしその場合は、事務所部分と自宅のプライベート部分を明確に区分する必要があります。パーテーションなどで独立した区画を設け、書類は施錠して保管するなどの配慮が求められます。区分が不十分だと指定を受けられないため、事前に指定権者へ確認しておきましょう。
運営基準は、サービスの質やご利用者様・ご家族の権利を守るために遵守すべき基準です。訪問介護では「訪問介護サービスに関する基準」と「業務運営に関する基準」の2種類を満たす必要があり、運営規程や各種記録の整備も求められます。
【訪問介護サービスに関する基準】 | 【業務運営に関する基準】 |
内容・手続きの説明、および同意 | 利用料等の受領方法 |
あわせて、令和6年度改定で業務継続計画(BCP)の策定が義務づけられ、訪問介護では令和7年(2025年)4月から、未策定の場合に基本報酬の一部(100分の1)が減算されます。開業準備の段階から整えておきたい項目です。
関連記事:訪問介護のBCP(業務継続計画)完全ガイド|作成手順から研修・訓練の実践例まで徹底解説
人員・設備・運営の基準を満たしたら、指定権者(都道府県または市)へ指定申請を行います。主な提出書類は、指定申請書、訪問介護事業所の指定に係る記載事項、登記簿謄本、従業者の勤務体制・勤務形態一覧表、就業規則の写し、資格証や雇用契約書(または誓約書)の写し、事業所の平面図、外観・内部の写真、運営規程、苦情を処理するために講ずる措置の概要、誓約書、介護給付費算定に係る体制等に関する届出書、介護職員等処遇改善加算などの届出書、老人居宅生活支援事業開始届などで、何十枚にもおよびます。
提出後は、指定権者による審査や実地調査が行われ、審査を通過すると指定通知書が届きます。通知書に記載された指定年月日から開業でき、この日に合わせて営業活動を始めます。必要書類や申請期限は指定権者によって異なるため、早めに確認してスケジュールを組みましょう。

開業には十分な資金の確保が欠かせません。初期費用に加え、収入が入るまでの運転資金まで見込んでおく必要があります。
項目 | 目安額 | 備考 |
法人設立 | 約10〜25万円 | 法人形態により異なる |
物件の契約 | 約50〜100万円 | 地域差が大きい |
備品の購入 | 約100万円 | デスク・PC・通信機器など |
採用費 | 約60〜100万円 | 募集方法で差が出やすい |
物件は地域によって差が出やすく、採用費も募集方法で大きく変わります。初期費用を抑えたい場合は、リファラル採用やSNSなどコストのかからない方法も有効です。初期費用は300〜500万円ほどが目安です。
訪問介護は介護報酬が収益の大半を占めており、入金はサービス提供の翌々月です。開業から2〜3ヶ月は収入がほとんどない状態が続くため、開業後3〜6ヶ月分の運転資金として家賃や人件費を見込み、初期費用と合わせて約800〜1,000万円を準備しておくと安心です。金額は情報源により幅があるため、本記事では自社試算の目安として一本化して示しています。
資金調達は、銀行や信用金庫からの融資と、日本政策金融公庫からの創業融資を組み合わせるのが一般的です。
政府系の日本政策金融公庫は、民間金融機関に比べて創業期でも融資を受けやすく、無担保・無保証人の枠がある点もポイントです。
どちらの融資でも、事業内容を説明する事業計画書と、収支を説明する収支計画書が判断材料になります。事業とその収支をできるだけ具体的にまとめましょう。
このほか、雇用管理の改善や設備導入を支援する助成金・補助金を活用できる場合もあります。ただし、これらの制度は年度ごとに改廃されるため(介護分野でかつて活用されていた助成金にも、統廃合で終了したものがあります)、活用を検討する際は厚生労働省や都道府県労働局、自治体の最新情報を確認しましょう。たとえば、ICTツールの導入では、デジタル化・AI導入補助金(経済産業省 中小企業庁)を利用できる場合があります。
指定を受けて開業できても、そこはゴールではなく経営のスタートです。事業を軌道に乗せるには、働き手であるスタッフと、サービスを届けるご利用者様の双方を確保し続ける必要があります。
訪問介護はヘルパー不足が深刻です。厚生労働省の職業安定業務統計によると、訪問介護のホームヘルパーの有効求人倍率は令和4年度に過去最高の15.53倍を記録した後も、直近で14.14倍と極めて高い水準が続いており、施設の介護職員(3.79倍前後)と比べても格差は大きい状況です。人材を確保するには、パートや登録ヘルパーの募集など働き方の窓口を広げることが有効です。直行直帰や中抜け、短時間勤務といった柔軟な勤務形態を開業初期から整えておくと、多様なライフスタイルの人材を採用しやすくなります。
実際の導入事例として、当社の訪問スケジュール・訪問ルートの自動作成クラウド『ZEST』を導入いただいた、訪問介護を複数拠点で展開するアカリエ様のケースがあります。同社では、スケジュール作成をはじめとする業務のデジタル化によって働きやすい環境づくりを進め、採用力の強化や処遇改善につなげています。
導入事例:株式会社アカリエ様
スタッフがそろっても、訪問先がなければ収入は得られません。開業準備から初期にかけては、営業に力を入れることが重要です。主な営業先は、居宅介護支援事業所、地域包括支援センター、医療機関です。相手ごとにニーズが異なるため、自社の強みを整理し、相手に合わせて提案しましょう。
営業が未経験のスタッフも多いため、誰でも同じように話せるトーク集を用意したり、初めは2人で挨拶に行ったりすると、不安を抑えられます。訪問しての挨拶だけでなく、定期的にFAXで空き枠を知らせたり、「○○だより」のような広報冊子を作成したりすると、ケアマネジャーや医療ソーシャルワーカー(MSW)の記憶に残りやすくなります。近年はオンラインでの情報収集が主流のため、事業所のホームページを整え、SNSで強みや特徴を発信することも、新規依頼や採用につながります。
空き枠を可視化して受け入れ判断を素早くすることも、依頼獲得に直結します。導入事例として、『ZEST』を導入いただいた訪問介護事業所の真愛の家様では、空き枠を可視化したことで受け入れ可否の判断が素早くなり、新規依頼の受け入れが約2割増加しました。確認にかかる担当者の負担も軽減されています。
導入事例:社会福祉法人 真愛の家様

赤字や廃業の多い訪問介護事業ですが、今後さらに少子高齢化が進み、需要は高まっていきます。事業所内の整備を進め、安定してご利用者様を獲得し、スタッフの採用もできるようになれば、黒字化の実現も十分に狙えます。開業前の準備とシミュレーションを十分に行うことが、黒字化前の廃業を防ぐ近道です。
開業初期から業務のデジタル化に取り組んでおくことも、その支えになります。訪問スケジュール・訪問ルートを自動で作成する訪問介護向けの『ZEST』は、ご利用者様の希望時間や職員の勤務条件、移動効率を考慮した予定を自動で作成し、開業初期のスケジュール作成にかかる工数の軽減を支援します。
あわせて、経営可視化ダッシュボード『ZEST BOARD』は、訪問件数・移動時間・稼働率などを自動で集計・グラフ化し、経営数値を見える化します。加算が適切に収益へ結びついているかの確認にも役立ちます。現場向けモバイルアプリ『ZEST HUB』を使えば、スタッフはスマートフォンから訪問予定や申し送りを確認でき、外出先での業務も進めやすくなります。
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