
改定告示の読み込み、同一建物ごとの訪問人数の集計、ベースアップ評価料の届出書類の準備。制度対応の事務作業に追われ、肝心の収益見通しを立てる時間が取れない。そんな状況にお悩みの訪問看護ステーションの経営者・管理者様も多いのではないでしょうか。
令和8年度(2026年度)の診療報酬改定は、診療報酬本体で+3.09%の引き上げとなり、そのうち賃上げ対応が1.70%、物価対応が0.76%を占めています。賃上げと物価高への対応が柱である一方、訪問看護には収益構造そのものの見直しを迫る変更も同時に盛り込まれました。
本記事では、限られた人員でケアの質と働きやすさをどう両立させるかという運営の視点から、改定の主な変更点と、事業所が取るべき対応を解説します。
今回の改定で訪問看護に関係する変更は、収益に直結するものから日々の記録の運用に関わるものまで多岐にわたります。ここでは、ステーション運営への影響が大きい項目を整理したうえで、それぞれの内容を解説します。
改定項目 | 変更の要点 | 影響が大きい事業所 |
同一建物の評価見直し | 敷地内の別棟も合算・人数区分の細分化 | 高齢者向け住まいへの訪問が多い事業所 |
包括型訪問看護療養費 | 併設・隣接ステーション向けの1日包括評価 | 24時間体制を組める併設型 |
賃上げ・物価高への対応 | ベースアップ評価料の見直しと物価対応料の新設 | すべての事業所 |
訪問時間・記録の適正化 | 30分以上を標準・20分未満は算定不可 | 短時間の頻回訪問が多い事業所 |
訪問看護医療情報連携加算 | 情報通信技術を用いた情報連携の新規評価 | 多機関連携が進んでいる事業所 |
※各項目の点数・単位数および施設基準の詳細は、告示および実施上の留意事項通知をご確認ください。
経営面で最初に確認したいのが、訪問先の人数の数え方が変わった点です。同一建物の範囲に同一敷地内の建物が加わり、敷地内にA棟・B棟と分かれて建つ高齢者向け住まいでは、棟ごとではなく敷地全体で人数を数えることになりました。
さらに、訪問看護基本療養費(Ⅱ)などの人数区分が細分化されています。従来は3人以上で一括りだった区分が「3〜9人」「10〜19人」「20〜49人」「50人以上」に分かれ、1月当たりの訪問日数(20日目まで/21日目以降)に応じた評価も加わりました。同一日の訪問人数が多いほど、また月間の訪問日数が多いほど単価が下がる設計です。
出典:厚生労働省「訪問看護療養費に係る指定訪問看護の費用の額の算定方法の一部を改正する件(令和8年厚生労働省告示第74号)」
訪問時間のルールも厳格化されました。訪問看護の実施時間は30分以上が標準とされ、緊急時等のやむを得ない事情を除いて20分を下回る訪問は算定不可となります。前回の提供から2時間未満の間隔で20分以上30分未満の訪問を行った場合は、合算して1回とみなされる取り扱いも加わりました。
有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などに併設・隣接する訪問看護ステーション(サテライトは対象外)を対象に、包括型訪問看護療養費が新設されました。加算を積み上げる出来高評価ではなく、1日当たりの包括評価に切り替える体系です。
算定にあたっては建物単位での届出が必要となり、対象となるのは特掲診療料の施設基準等別表第七・第八に掲げる方、または特別訪問看護指示書に係る指定訪問看護を受けている方です。日中と夜間帯に少なくとも1回ずつの訪問を行うこと、建物を単位として24時間の連絡・相談に対応できること、医療安全と衛生管理の組織的な体制を整えていることなどが求められます。
注意したいのは、届出を行った建物でも、居住する方全員が一律に包括型になるわけではない点です。対象者要件を満たさない方については従来どおりの算定となるため、請求実務ではご利用者様ごとの属性管理が欠かせません。
光熱水費などの物件費の高騰を下支えする目的で、訪問看護物価対応料が新設されました。あわせて、訪問看護ベースアップ評価料は対象職員の範囲が広がり、継続して賃上げを行ってきた事業所がより高く評価される仕組みへと見直されています。
項目 | 算定単位 | 金額(令和8年度) |
訪問看護物価対応料(月の初日の訪問) | 1日につき | 60円 |
訪問看護物価対応料(2日目以降の訪問) | 1日につき | 20円 |
訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)新規に賃上げ | 所定の療養費に加算 | 1,050円 |
訪問看護ベースアップ評価料(Ⅰ)継続的な賃上げ | 所定の療養費に加算 | 1,830円 |
※物価対応料は令和9年6月以降、それぞれ120円・40円への引き上げが予定されています。ベースアップ評価料の区分・要件および届出様式は、厚生労働省の特設ページで最新の内容をご確認ください。
継続的な賃上げを行う事業所では1,830円を算定でき、新たに賃上げを行う事業所との差は小さくありません。賃金改善の計画と実績報告をどう回すかが、そのまま収益差になる構造といえます。
関連記事:訪問看護ベースアップ評価料を徹底解説:賃上げの仕組み
訪問看護が漫然かつ画一的なものとならないよう、運営基準や療養担当規則の見直しによる適正化も図られました。記録の面では、訪問看護記録書等へ実際の訪問開始時刻と終了時刻を記載することが明確化されています。
また、紹介業者等へ金品を提供してご利用者様を紹介してもらう経済上の利益の提供による誘引が明確に禁止されました。保険医療機関が特定の訪問看護ステーション等を利用すべき旨の指示を行うことの対償として財産上の利益を収受することも禁じられ、法令遵守体制の整備が改めて求められています。
関連記事:訪問看護計画書と報告書の書き方|作成時の留意点も確認しよう
医療保険である令和8年度(2026年度)の診療報酬改定と合わせ、介護保険分野でも訪問看護ステーションの運営に直結する大きな動きがありました。令和9年度(2027年度)を待たずして2026年6月に施行された「令和8年度臨時介護報酬改定」では、昨今の物件費や光熱水費、人件費の高騰を踏まえ、介護報酬の改定率が全体で2.03%引き上げられることとなりました。
今回の臨時改定で経営者・管理者様が特に注目すべきポイントは、これまで主に介護職員を中心としてきた処遇改善の枠組みが大幅に拡大された点です。訪問看護や訪問リハビリテーションの従事者、さらにはケアマネジャー(介護支援専門員)も対象に含まれることになり、リハビリ専門職を含めたステーションで働く幅広いスタッフの処遇改善を力強く後押しする改定となっています。
処遇改善の対象拡大に伴い、介護保険の訪問看護費において新たに「介護職員等処遇改善加算」が新設されました。この加算は、基本報酬から各種加算によって算定した総単位数の1.8%に相当する単位数が上乗せされる、非常に手厚い仕組みとなっています。算定にあたっては、以下の「要件1」または「要件2」のいずれかを満たす必要があります。
要件1(通常の処遇改善要件を満たす場合)
賃金体系の整備や研修の実施といったキャリアアップ要件(IおよびII)を満たし、さらに職場環境の改善に向けた具体的な取り組みを行っていること。
要件2(生産性向上や協働化の取組要件を満たす場合)
以下のいずれかの取り組みを行っていること。
居宅介護支援事業所などとの連携をデジタル化する「ケアプランデータ連携システム」に加入し、実際にシステムを利用している。
訪問看護ステーションを運営する法人が、社会福祉連携推進法人に所属している。

今回の改定は、収益構造と日々のオペレーションの両方に影響します。ここでは、事業所が直面しやすい2つの課題を解説します。
影響が大きいのは、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅への訪問を主力とするステーションです。同一日の訪問人数と月間の訪問日数の双方で単価が段階的に下がる仕組みとなったため、従来の訪問ルートやシフトを変えないままでは大幅な減収となる可能性があります。
併設型のステーションは、新設された包括型訪問看護療養費を算定するか、従来どおりの出来高で算定するかを選ぶことになります。事業所の規模、ご利用者様の重症度、24時間体制の構築状況を踏まえ、どちらが自事業所に適するかの収益シミュレーションが判断の前提になります。
訪問の開始・終了時刻の記録と20分ルールの厳格化により、現場スタッフにはこれまで以上に正確な時間管理が求められます。訪問直後に記録できる仕組みがないと、記憶に頼った事後入力が常態化しかねません。
管理者側の負担も同様です。同一建物ごとの人数と月間訪問日数の集計、ベースアップ評価料に伴う賃金改善算定基礎額の算出と実績報告書の作成などが加わり、管理者と事務担当者の業務量をどう抑えるかが改定後の運営課題となります。
関連記事:訪問看護のレセプト業務の完全ガイド:複雑な請求ルールと最新のオンライン化に対応する

増える事務負担を抑えながら制度に対応するには、ICT(情報通信技術)の活用が現実的な選択肢となります。ここでは、改定で新設された情報連携の評価と、日々の運用で押さえたい対策を解説します。
他機関との情報共有を評価する仕組みとして、訪問看護医療情報連携加算が新設されました(月1回1,000円)。医療関係職種等が情報通信技術を用いて記録したご利用者様の診療情報等を取得・活用し、計画的な管理を行った場合に算定できます。
算定には届出が必要で、情報を一元的に管理するサーバー等で常時確認できる体制、参加者が情報を時系列で閲覧できるツールの使用、特別の関係を除く5か所以上の連携機関があることなどの施設基準を満たす必要があります。
あわせて、自事業所のウェブサイトへの掲載が要件とされていますが、この掲載義務には令和8年9月30日までの経過措置が設けられています。算定を検討する事業所は、期限から逆算して届出と掲載の準備を進めることが必要です。
参考:公益財団法人日本訪問看護財団「令和8年度診療報酬改定について【訪問看護に関する説明資料等】」
実際の訪問時間の記録や、同一建物ごとの訪問人数・日数の管理に対応するには、手書きのホワイトボードやエクセルによる管理では負担が大きくなります。人数区分をまたぐかどうかで単価が変わる以上、訪問実績と予定の一元管理が収益管理の前提になります。
移動時間を考慮した予定作成、急な変更のリアルタイムな共有、訪問先での記録といった機能を備えた仕組みを整えることで、管理者の調整業務と現場の事務作業の削減が期待できます。生まれた時間をご利用者様へのケアや人材育成に充てられる点も、改定後の体制づくりでは重要です。
関連記事:訪問看護のスケジュール管理|アプリを活用して効率化を実現しよう
ICTツールの導入には初期費用と月額費用が発生しますが、国や自治体の制度を活用することで負担を抑えられる場合があります。代表的なものが、中小企業・小規模事業者を対象としたデジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)です。
介護分野では、各都道府県が地域医療介護総合確保基金を財源として実施する介護テクノロジー導入支援事業があります。対象となるサービス種別や補助率、上限額は都道府県ごとに異なり、訪問看護ステーションが対象に含まれるかどうかも実施要領によります。導入計画を立てる前に、所在地の都道府県の最新の実施要領と公募要領を確認してください。
複雑な訪問スケジュールの作成は管理者の大きな負担であり、急な変更への対応や訪問の抜け漏れを防ぐ体制づくりは、改定対応と並行して取り組むべき課題です。ここでは、当社の訪問スケジュール・訪問ルートの自動作成クラウド『ZEST SCHEDULE』を導入いただいた事業所の取り組みをご紹介します。
日本赤十字社 舞鶴赤十字訪問看護ステーションでは、管理者の交代に伴いご利用者様の情報把握に時間を要し、業務時間の多くをエクセルでのスケジュール作成に費やしていたことが課題でした。導入後はスケジュールが可視化され、空き時間が明確になったことで新規のご依頼の受け入れや研修の調整がしやすくなっています。手作業による作成をやめたことで、毎月印刷していた用紙も不要になりました。
あわせて、移動時間の集計や目標設定が数値で扱えるようになり、データに基づく判断がしやすくなった点も挙げられています。病院併設型のステーション特有の人事異動があっても同じ手順で管理できる体制が整い、属人化の防止にもつながりました。
事例詳細:日本赤十字社 舞鶴赤十字訪問看護ステーション様の導入事例

令和8年度の診療報酬改定は、同一建物の評価見直しや20分ルールの厳格化といった収益面で厳しい側面がある一方、ベースアップ評価料による処遇改善や、訪問看護医療情報連携加算に代表される情報連携の評価という前向きな側面も併せ持っています。まずは自事業所の訪問先の内訳を洗い出し、同一建物に該当する訪問がどの程度あるかを把握するところから着手すると、収益インパクトの見通しを立てやすくなります。
そのうえで、包括型を選ぶかどうかの判断、ベースアップ評価料の届出、情報連携加算の要件確認と、期限のあるものから順に進めていく流れが現実的です。制度の変わり目は、訪問体制や記録の運用を見直す機会でもあります。
なかでもスケジュール管理は、収益・スタッフの負担・ご利用者様との信頼関係のすべてに関わる、ICT化の効果が表れやすい領域です。訪問スケジュールと訪問ルートを自動で作成する『ZEST SCHEDULE』は、ご利用者様の希望時間や職員の勤務シフト、移動効率といった訪問特有の複雑な条件を考慮した予定を自動で作成し、管理者様の作成・調整にかかる負担の軽減を支援します。
現場スタッフ向けモバイルアプリ『ZEST HUB』では、スマートフォンから訪問予定や移動時間、空き時間を一目で確認できます。ご利用者様の情報や申し送りのメモも確認でき、電子カルテなどの関連ツールへスムーズに遷移できるため、外出先でも記録と参照を進めやすくなります。
なお、『ZEST』はデジタル化・AI導入補助金2026の対象ツールです。無料オンライン説明会も開催しており、実際に導入して業務改善に取り組む事業所の事例もご紹介しています。
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