
訪問記録の入力や勤務シフトの調整、日々の訪問スケジュールの作成に時間を取られ、本来力を注ぎたいケアや職員の育成に手が回らない。そんな状況に頭を悩ませる訪問看護ステーションや訪問介護事業所の経営者・ご担当者様も多いのではないでしょうか。
人手不足が深刻化するなか、限られた人員でサービスを維持する手段として注目されているのが、介護分野におけるAIの活用です。厚生労働省の推計では、2040年度の介護職員は2022年度と比べて約57万人の増員が必要とされ、効率化の仕組みづくりが急がれています。
ただし、AIは種類や得意分野がさまざまで、専門職の判断まで任せられるわけではありません。本記事では、訪問系事業者の実務目線で、判断に必要な観点を順に確認します。

介護分野でAIの活用が広がる背景には、深刻な人手不足と高齢化があります。限られた人員でサービスを維持するために、業務を効率化する技術への期待が高まっています。ここでは、その背景と国の後押し、現場への広がりを確認します。
介護現場の人手不足は、今後さらに深刻になると見込まれています。厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」(令和6年7月12日公表)によると、2040年度に必要な介護職員は約272万人で、2022年度の約215万人と比べて約57万人の増員が必要とされています。
背景には、高齢者人口の増加と生産年齢人口の減少が同時に進む構造があります。働き手そのものが減っていくなかでは、採用の強化だけで需給の差を埋めることは難しく、一人あたりの業務を効率化する視点が欠かせません。
そこで注目されているのが、記録や情報共有、スケジュール作成といった間接業務をテクノロジーで軽減する取り組みです。AIやICT〈情報通信技術〉の活用は、ケアに充てる時間を確保するための現実的な選択肢になりつつあります。
参考:厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」
関連記事:看護業務改善の完全ガイド| 人手不足を解消しケアの質を高めるステップ
介護分野へのテクノロジー導入は、国の政策としても後押しされています。厚生労働省と経済産業省は、従来の「ロボット技術の介護利用における重点分野」を令和6年(2024年)6月に改訂し、名称を「介護テクノロジー利用の重点分野」へと変更しました。この改訂で対象は6分野13項目から9分野16項目へと拡充され、令和7年度(2025年度)以降の施策に反映されています。
この重点分野には、見守りや移乗支援に加えて、記録などの間接業務を支える「介護業務支援」も含まれます。開発と導入の両面を支える仕組みとして、経済産業省の「ロボット介護機器開発等推進事業」や、厚生労働省の「介護テクノロジー導入支援事業」「介護テクノロジー定着支援事業」が設けられています。
導入は現場にも広がりつつあります。介護労働安定センターの令和6年度「介護労働実態調査」(令和7年7月28日公表)では、訪問系の事業所で「ケア記録・ケアプラン等」の入力に関する機能を日常的に利用する割合が56.6%にのぼりました。自事業所の課題に合う分野を確認し、活用できる支援策があるかを調べておくと、導入のハードルを下げられます。
参考:厚生労働省「ロボット技術の介護利用における重点分野」を改訂しました

介護AIとは、見守りや記録、スケジュール作成などの業務をデータ処理によって支える技術の総称です。ひとくちにAIといっても得意分野は異なり、特に「生成AI」とは役割が分かれます。ここでは両者の違いと、現場で使われる主な種類を確認します。
AIと生成AIは同じものとして語られがちですが、得意とする処理は異なります。一般にAIと呼ばれる技術は、画像や音声の認識、状態の予測、条件に基づく割り当てや最適化などを得意とします。訪問スケジュールの自動作成や見守りセンサーによる検知は、この領域にあたります。
一方の生成AIは、ChatGPTに代表されるように、文章や要約を新たに作り出す処理を得意とします。介護の場面では、記録文案の下書きや会議メモの要約、研修資料の作成などが該当します。両者の違いを踏まえると、導入したい業務にどちらの技術が向くかを見極めやすくなります。
区分 | 主な処理内容 | 介護現場での例 |
AI | 予測・最適化、画像・音声認識、条件に基づく割り当て | 訪問スケジュールの自動作成、見守りセンサーによる検知、音声の文字起こし |
生成AI | 文章・要約の生成 | 記録文案の下書き、会議メモの要約、研修資料の作成 |
介護現場で使われるAIは、業務領域ごとにいくつかの種類に分けられます。代表的なものが、見守り、記録・文書作成、ケアプラン作成の支援、そして訪問スケジュール・ルートの作成です。それぞれ得意な場面が異なります。
見守りや移乗支援などの機器は、主に施設での身体的な負担軽減や事故防止で活用が進んでいます。一方、記録や情報共有、スケジュール・ルートの作成にかかわるAIは、訪問系の事業所を含めて幅広く役立ちます。在宅・訪問の現場では、こうした間接業務を支えるAIが中心になります。
なお、ケアプラン作成を支援するAIは、あくまで案の作成や下書きを助けるものです。ご利用者様に必要なケアの内容やケアプランの最終決定は、介護支援専門員(ケアマネジャー)などの専門職が担います。
種類 | できること | 主な活用場面 |
見守り | 睡眠や動きのデータからの状態把握、転倒リスクの検知を支援 | 主に施設。夜間の巡視業務の効率化など |
記録・文書作成(生成AI) | 記録文案の下書き、会議メモの要約を支援 | 施設・在宅の双方 |
ケアプラン作成支援 | 計画案の作成・下書きを支援(最終決定は専門職) | 施設・在宅の双方 |
スケジュール・ルート作成 | 訪問予定や移動ルートの自動作成、条件を考慮した割り当てを支援 | 主に訪問(在宅) |

AIを活用するメリットは、職員の負担軽減と業務の効率化に集約されます。空いた時間をケアや教育に振り向けられる点が、現場にとって大きな価値になります。ここでは代表的なメリットを、活用シーンとあわせて確認します。
AIを活用する第一のメリットは、職員の負担を軽くできることです。見守りセンサーや移乗を支える機器は、夜間の巡視や身体的にきつい介助の負担を和らげ、腰痛などのリスク軽減につながります。
事務面でも効果が期待できます。記録の下書きや文字起こしを自動化すれば、書類作成にかかる時間を短縮できます。負担が減ることで、職員がご利用者様と向き合う時間を確保しやすくなる点も見逃せません。
記録と情報共有は、AIによる効率化の効果が出やすい領域です。AIや生成AIを使えば、訪問時の音声を文字起こししたり、そのメモから記録文案を下書きしたり、申し送りの内容を要約したりといった作業を支援できます。
ただし、利用にあたっては注意も必要です。ご利用者様を特定できる情報を安易に入力しない、生成された内容は担当者が確認する、といった運用ルールを定めておくことが欠かせません。作成した記録は、介護ソフトや電子カルテなどの記録システムと連携させることで、共有の手間をさらに減らせます。
記録に限らず、業務を効率化するデジタルツールは幅広くあります。スケジュール管理を含めた効率化の考え方は、以下の記事でも解説しています。
関連記事:訪問看護のスケジュール管理|アプリを活用して効率化を実現しよう
訪問系の事業所では、スケジュール・ルート作成の効率化がとりわけ大きな効果を生みます。ご利用者様の希望時間、職員の勤務シフト、担当者の固定やスキル、移動効率など、考慮すべき条件が多いため、手作業では多大な時間がかかるからです。
AIを使えば、こうした複雑な条件を踏まえたスケジュールを自動で作成できます。移動ルートもあわせて計算することで、無駄な移動を減らし、1日に回れる訪問件数を増やしやすくなります。作成にかかる時間と手間が減るぶん、管理者は調整以外の業務に時間を充てられます。

AIは業務を効率化する一方で、あらゆることを任せられるわけではありません。専門職の判断は代替できず、導入には費用や運用の課題も伴います。ここでは、押さえておきたい限界と注意点を確認します。
AIが支援できるのは、あくまで業務の処理にあたる部分です。ご利用者様に必要なケアの判断や、ケア方針・介護計画の最終決定、医療上の診断・治療にかかわる判断は、AIが担える領域ではありません。
安全性の確保も同様です。AIによる予測や検知は判断を助ける材料にはなりますが、最終的な確認と責任は専門職が負います。業務処理の効率化と、専門職による判断とを切り分けて考えることが、AIを適切に使う前提になります。
AIの導入には、初期費用と運用費がかかります。機器やソフトの料金だけでなく、運用に慣れるまでの教育や体制づくりにも一定のコストが必要です。費用に見合う効果が得られるかを、導入前に見積もっておくことが求められます。
また、介護の現場では機微な個人情報を扱うため、セキュリティへの配慮が欠かせません。データの取り扱い条件を確認し、事業所の利用規程を整えたうえで運用することが重要です。生成AIを使う場合は、公的なガイダンスや専門職の確認もあわせて活用するとよいでしょう。
導入したAIを現場に根づかせるには、運用の設計が鍵になります。まずはデモンストレーションや研修を通じて、職員が操作に慣れる機会を用意します。使い方がわからないまま放置されると、せっかくの機器も活用されません。
あわせて、エラーが起きたときの対応手順も決めておきます。AIの出力をそのまま使うのではなく、人が確認する工程を組み込むことで、安心して運用できます。AIに任せる部分と人が担う部分を明確にすることが、定着への近道です。

介護AIの導入を成功させるには、段階を踏んだ進め方が有効です。いきなり大きく入れ替えるのではなく、小さく始めて効果を確かめることが失敗を防ぎます。ここでは、在宅ケアの事業所を想定した手順を確認します。
導入前に確認しておきたいポイントを、あらかじめ表にまとめました。自事業所の状況と照らしながら、抜け漏れがないかを確認してみてください。
確認項目 | 確認の観点 |
課題の明確化 | 記録・スケジュール・見守りなど、どの業務に負担があるか |
対象範囲 | まずは一部の業務やチームから試せるか |
費用対効果 | 初期費用・運用費に見合う時間削減が見込めるか |
支援策の活用 | 国や自治体の導入支援・補助が使えるか |
個人情報・セキュリティ | データの取り扱い条件と利用規程が整っているか |
運用・定着 | 研修やエラー時対応、人による確認工程を設計しているか |
最初に取り組むのは、自事業所の課題を洗い出すことです。記録に時間がかかっているのか、スケジュール調整が負担なのか、といった具体的な困りごとを明確にします。課題が定まれば、どの領域のAIが役立つかを判断しやすくなります。
そのうえで、小規模な範囲から試すことをおすすめします。一部の業務や一部のチームで導入し、効果と使い勝手を確かめてから広げていくことで、現場の混乱を抑えられます。
導入を判断する際は、費用対効果を事前に見積もります。初期費用と運用費に対して、どれだけの時間削減や負担軽減が見込めるかを確認し、投資に見合うかを判断します。前述の国の支援策を活用できないかも、あわせて調べておくとよいでしょう。
導入後の運用フローも、事前に描いておくことが大切です。誰がどの場面で使うか、出力をどう確認するのかを決めておくと、導入直後から迷わずに運用を始められます。

ご利用者様の希望時間や職員のシフト、担当者の固定やスキル、移動効率など、訪問スケジュールの作成では考慮すべき条件が多く、手作業では多大な時間がかかります。こうした条件を踏まえた自動作成の仕組みが、現場でどれだけの効果を生むのかを見ていきます。
当社の訪問スケジュール・訪問ルートの自動作成クラウド『ZEST』を導入いただいた訪問介護のホームヘルパーステーション花紬様(社会福祉法人いろどり福祉会)では、Googleスプレッドシートと手作業で予定作成や介護ソフトへの転記などに月30時間以上をかけていた業務を見直し、予定に関わる時間を80%削減しました。
同事業所も参加した厚生労働省の生産性向上効果測定事業では、スケジュール作成・調整の時間が最大で約46%削減(1日あたり85.1分から45.5分へ)という結果も報告されています。
参考:「介護テクノロジー等による生産性向上」効果測定事業結果(株式会社ゼスト)

介護AIは、見守りや記録、スケジュール・ルート作成といった業務を支え、人手不足のなかでケアに充てる時間を生み出す手段です。一方で、ケア方針や医療上の判断といった専門職の役割まで代替するものではありません。AIに任せる業務処理と、人が担う判断とを切り分けて考えることが、活用の出発点になります。
導入を検討する際は、自事業所の課題を洗い出し、小さく試してから広げる進め方が現実的です。なかでも訪問系の事業所では、条件が複雑で負担の大きい訪問スケジュール・ルートの作成が、AI活用の効果を実感しやすい領域といえます。
こうした訪問スケジュール・ルートの自動作成を担うのが、当社の『ZEST SCHEDULE』です。ご利用者様の希望時間や職員の勤務シフト、移動効率といった訪問特有の条件を考慮し、スケジュール作成者に代わって最適なスケジュールを提案します。Googleマップと連携して効率的な移動ルートを自動で計算するため、無駄な移動を減らし、1日の訪問可能件数を増やすことにもつながります。作成にかかる時間と手間を軽減し、現場にゆとりを生む仕組みとして、1,200事業所以上で導入されています。
あわせて、現場のスタッフがスマートフォンから訪問予定や空き時間を確認できる現場向けモバイルアプリ『ZEST HUB』を使えば、外出先でも必要な情報を把握しやすくなります。ご利用者様の情報や申し送りメモの確認、記録システムへの遷移もスムーズになり、直行直帰を含めた働き方を支えます。
介護AIの活用は、自事業所の課題に合う領域を見極めることから始まります。まずは負担の大きい訪問スケジュール・ルートの効率化から着手し、生み出したゆとりをケアや教育に振り向けていきましょう。
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