
「看護業務における優先順位の判断は、利用者さんの安全を守り、質の高いケアを提供する上で欠かせません。多岐にわたる利用者さんの情報を整理し、優先順位をつけることで、効率的かつ効果的な看護計画の立案を可能にします。
本コラムでは、優先順位の判断基準から多重課題への対応策、チーム連携の重要性まで、具体的なポイントを詳しく解説します。


看護の現場では、複数の利用者さんを同時に担当し、限られた時間の中で多くの業務を遂行することが日常的に求められます。このような複数の課題が重なる状況を多重課題と呼び、利用者さんの安全を守りつつ適切なケアを提供するために、業務に優先順位をつけることが不可欠です。
臨床看護における「優先順位」は、単なる業務リストの順序付けではありません。これは、「生命への影響度を見積もり、患者の状態によって重みを与えて相対的に重要度が判断され、状況に応じて変動する看護実践の位置づけ」であると定義されます。
これは以下の3つの属性(特徴)を持つ動的な概念です。
1. 生命への影響から程度が見積もられる:生命に直結するかどうかで、最優先、高い、低いといった重要度の見積もりがなされます。
2. 利用者さんの状態で重みづけられる:業務の種類だけでなく、利用者さんの治療目的や状態の安定性によって重要度が調整されます。
3. 状況によって変動する:利用者さんの容態変化や、作業の中断(電話や他の要請)により、優先順位は絶えず再編成されます。
優先順位を判断するタイミングは主に2つあります。
• 朝の情報収集時:1日の業務効率化のために、出勤後にスケジュールを立てる際に、実施時間が固定されている業務(訪問時間の指定がある利用者への対応やインスリン投与など)を先に組み込み、時間にゆとりを持たせることが重要です。
• 受け持ち利用者さんに急変が起こった場合:心肺停止や呼吸困難など、生命に直結する事象(救命処置)が発生した際は、他のスケジュールよりも最優先で対応する必要があります。

看護師が多重課題に適切に対応するためには、以下の5つの視点を判断基準として優先順位を決定することが効果的です。
視点 | 判断基準と具体的な内容 |
① 生命の維持 | 最も重要な視点です。急変時の救命処置や、利用者さんの病歴・病状を踏まえて、生命の危険があるかどうかを迅速に判断します。 |
② 安全管理 | 生命の危機がなくとも、利用者さんの安全を守る視点です。例えば、転倒リスクの高い認知症利用者さんのトイレ介助などは、事故やトラブルを予防するために優先されます。 |
③ 報告と応援の要請 | 多重課題を1人で解決しようとせず、安全管理上のリスクが生じる可能性があると判断したら、速やかに応援を要請することも正しい対応の一つです。 |
④ 時間管理 | 生命や安全にリスクがない場合、次にケアにどれくらいの時間を要するかという視点で判断します。実施時間が固定されている業務を優先し、短時間で完了するタスクから処理していくことで、スケジュールに余裕を生み出します。 |
⑤ 他の利用者さんへの配慮 | 忙しい時こそ、他の利用者さんへの対応が雑にならないよう注意が必要です。「ちょっと待っててください」といった抽象的な指示を避けるなど、丁寧な対応を欠かさないことが、多重課題を円滑に解決するポイントです。 |
優先順位付けにおいては、マズローの欲求5段階説が目安として参考にされます。生命に関わるケアや苦痛緩和が最優先されるのは、この説における「生理的欲求」や「安全欲求」を満たすことが根幹となるためです。
• 最優先の業務:救命処置、安全確保、身体的苦痛の緩和など、生命に直結する、または身体の恒常性を守るケアです。
• より順位が高い業務:臨床的に不安定な利用者さんへの対応、治療に関連する医療技術を伴う業務、身体面の観察や評価。
• 相対的に順位が低い業務:生活援助(清潔ケア、栄養管理、活動と休息)や、精神的ケア、利用者教育、そして看護記録などの利用者さんに直接関わらない活動は、相対的に順位が低くなる傾向があります。
留意点: これらは順位が低いとされるものの、利用者さんにとっては重要であり、柔軟な対応が求められます。
優先順位は、業務の緊急性だけでなく、利用者さんの個別的な状況によって「重みづけ」されます。看護師は、以下の要素を総合的にアセスメントし、状態が不安定な利用者さんのケアを優先します。
• 治療状況:利用者さんの治療目的や、病期(病気の段階)。
• 病識:利用者さんの治療に対する認識。
• 年齢:高齢者や小児など、特徴を踏まえた配慮。
• 相対的な安定度:身体面の安定性や、状態変化の起こりやすさ。
優先順位は、看護師個人の判断や技術、そして職場の環境によって大きく影響を受けます。これらの影響要因を「先行要件」といいます。
先行要因のカテゴリー | 具体的な内容 |
看護師および組織の一員としての責務 | 利用者中心のケアを追求する倫理的責務、および組織全体の業務が円滑に進むように配慮する責任。 |
看護師の熟練度の差 | 看護師の知識の量、技術力、自律性、そしてアセスメント能力といった力量に左右されます。熟練度の低い看護師は、何が最も重要か判断しにくい傾向があります。また、業務多忙やストレスの強さも判断に影響します。 |
組織文化と制度の影響 | 組織の規範、チームの価値観、チームの習慣などの組織文化が、個々の看護師の優先順位付けに影響を及ぼします。また、医療をとりまく医学的・経済的・政治的な制度的枠組みも判断に影響を与えます。 |
時間の制約や人員の不足 | 業務量が多く時間が不足していること、または人手が不足していることで、本来行うべきケアが競合し、優先順位に影響を与えます。 |
多重課題に直面した際に、混乱せずに冷静に対応するためには、日々の業務における工夫が必要です。
• ワークシートの活用:朝の情報収集時にワークシートを作成し、1日の業務を時系列で整理します。時間をずらせない業務には印をつけたり色をつけたりして、視覚的に把握することで、優先度を明確にし、業務の漏れを防ぎます。
• 業務にかかる時間の記録:各業務に要する時間をあらかじめ把握しておくことで、優先順位を考慮した適切なスケジュール調整が可能になります。利用者さんの状態によって想定より時間がかかる可能性も考慮し、余裕を持った時間配分を心がけましょう。
業務の進め方に迷ったときや、自分が多重課題で手一杯になったと感じたときは、先輩看護師に報告・相談することが重要です。ナースコールなどで応援を要請し、チームで協力して対応に当たることが求められます。
また、優先順位を設定する過程で、看護師は自己調整を行うだけでなく、看護師間や利用者さんと看護師の間で調整を行うことがあります(例:利用者さんと相談してケアのタイミングを調整する)。

多重課題への対応スキルは、一朝一夕で習得できるものではないため、体系的な研修や現場での指導が不可欠です。
多重課題研修では、教育研究者のM・デイビッド・メリルが提唱した「IDの第一原理」に基づく要素を取り入れることが推奨されています。
IDの第一原理の要素 | 研修における目的と実施方法 |
現実に起きそうな問題に取り組む | 実際の看護現場でどう活用できるか、具体的なイメージを持てるように、詳細な事例を設定します。 |
これまでに身につけた知識を活かす | 新しい知識を学ぶ前に、受講者がすでに持っている知識や経験を呼び起こし、それを土台として新たな課題(優先順位判断)に取り組ませることで、学習効果を高めます。 |
解決策を例として示す | 事例に対し、「どのような優先順位をつけるのか」「なぜそうなるのか」を具体的に説明し、断片的だった知識を現場で応用できるよう線でつなげます。 |
現場での活用と結びつける | 知識を応用できるシミュレーションを多く実施し、研修で学んだ知識と実際の現場での対応とを結びつけます。ミスがあっても、その行動の根拠をヒアリングし、正しい対応を提示します。 |
振り返りを行う | 研修の最後に、受講者が「何を得たか」「現場にどう臨むか」をヒアリングし、指導者が助言することで学びを統合させます。 |
出典:サンライトヒューマンTDMC(メリルのID第一原理とは)
多重課題の処理が苦手な看護師には、成功体験を通じて自信をつけさせることが重要です。
1. 予測できる課題の提示:まず、予定された検査やリハビリテーションなど、予測できる課題に集中して取り組んでもらうことで、業務に必要な時間感覚を養わせます。
2. 指導者側の工夫:受け持ち人数を少なくしたり、急変リスクの低い利用者さんを担当させたりするなど、指導者側があらかじめ多重課題を少なくする工夫をします。
3. 具体的なフィードバック:失敗の指摘だけでなく、できたこと(成功した点)を必ず認め、自信につなげます。失敗を振り返る際も、感情的にならず「どこが、どのように、どう改善すれば良いか」を具体的に指導しましょう。


多重課題が常態化する訪問看護の現場において、適切な優先順位を判断し、安全なケアを提供するためには、看護師個人のスキルだけでなく、組織的な「時間と業務のゆとり」作りが不可欠です。
在宅医療・介護経営支援プラットフォーム『ZEST』は、スケジュール作成や事務作業、営業活動をDX化することで、業務時間を大幅に圧縮。スタッフが利用者さんと向き合い、落ち着いてアセスメントを行える環境を整えることで、多重課題によるインシデントのリスクを減らし、質の高いケアの提供を支援します。

コラムで触れた通り、安全なケアのためには「朝のスケジュール調整」や「移動時間の管理」が重要です。
『ZEST SCHEDULE』は、利用者の希望時間、スタッフの資格や相性、勤務シフトといった複雑な条件を解析し、最適化された訪問スケジュールを瞬時に自動作成します。
Googleマップと連携して移動ルートを効率化することで、移動時間を削減し、ケアに充てる時間や記録を行うための「余白」を創出。突発的な対応や急変時にも柔軟に調整しやすい体制を整え、スタッフが時間に追われることなく、目の前の利用者への優先順位判断に集中できるようサポートします。

多重課題への対応には、迅速な情報収集とチームへの報告・連絡が欠かせません。
『ZEST HUB』を活用すれば、スタッフはスマートフォンで訪問予定や利用者情報、申し送り事項をいつでもどこでも確認できます。 訪問先や移動の合間に、カルテやチャットツールへスムーズに連携できるため、記録や報告業務の手間を大幅に削減。
「あの情報はどこだっけ?」と探す時間を減らし、優先すべきケアや観察項目に意識を向けることができます。また、空き時間の可視化により、チーム内での応援要請やタスクの分担も円滑になり、組織全体での対応力を高めます。
優先順位の判断を狂わせる大きな要因の一つに「人員不足」があります。
十分な人員体制を確保するためには、経営の安定化が必須です。『ZEST RRM』は、スケジュールの空き時間に合わせて効率的な営業先(居宅介護支援事業所など)を自動提案し、現場の負担を最小限に抑えながら新規依頼の獲得を支援します。
営業活動の履歴や成果をデータ化して管理することで、属人化を防ぎ、継続的な利用者獲得を実現。これにより経営基盤が安定し、スタッフの増員や採用強化につなげることが可能になります。結果として、一人ひとりの業務負担が適正化され、多重課題に対応しやすい職場環境が実現します。
業務の優先順位を正しく判断するスキルは、緊急時でも患者さんの安全を確保し、質の高いケアを提供する上で不可欠です。
優先順位付けを適切に行うことで、業務の手順が整理され、限られた資源の中で重要度の高い業務に集中できるため、効率的にケアを実践できます。
しかし、優先順位をつけた結果、順位の低いケア(生活援助や精神的サポートなど)が後回しや未実施になることもあり、看護師は「すべての患者にタイムリーにケアを提供したい」という思いと「現実の資源制約」との間でケア提供にジレンマが生じるという倫理的な葛藤を抱えることになります。このジレンマの存在を認識することも、優先順位付けの現実的な帰結の一つです。
このコラムが、皆様のより良い看護過程の展開の一助となれば幸いです。
ZESTでは、毎日無料オンライン説明会を行っておりますので、ご興味がございましたら是非お申込みください。
お役立ち情報の他に無料セミナーなどを行っております。実際に『ZEST』を導入して業務効率化に成功している事業所の経営者にご登壇いただくセミナーもございますので、是非ご参加ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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