
訪問看護サービスを提供する事業所にとって、BCP(業務継続計画)の策定は、もはや任意ではなく義務となっています。特に、2025年4月からは未策定の事業所に対し介護報酬の減算が適用されるため、計画策定の緊急性は非常に高まっています。
本記事では、厚生労働省の指針に基づいたBCP策定の具体的なステップと、災害時に真に機能する計画を作成するためのポイント、そしてデジタル技術の活用方法について、包括的に解説します。


BCP(Business Continuity Plan:業務継続計画)とは、自然災害や大火災、感染症の流行といった緊急事態に直面した場合でも、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる業務を中断させない、あるいは可能な限り早期に復旧・継続させるために、平常時から準備しておく計画のことです。
訪問看護事業所にとって、BCP策定の目的は主に以下の3点に集約されます。
1. 職員の安全確保:緊急時および災害時におけるスタッフの安全を守ること。
2. 事業の継続:利用者の生活を維持するために訪問看護サービスの提供を継続し、事業所を存続させること。
3. 社会的責務の遂行:地域の医療・介護資源を担う役割を果たすこと。
BCPを平時から備えておくことにより、組織のレジリエンス(再起力・回復力)を高めることが期待できます。また、BCP策定は、防ぎ得た災害関連死(PDD)の約半数を阻止する可能性も示唆されています。
BCPと災害対策マニュアルは混同されがちですが、目的と対応範囲が明確に異なります。
項目 | 災害対策マニュアル | BCP(業務継続計画) |
|---|---|---|
目的 | 災害発生後、直ちに何をすべきかを定めた緊急・初期対応の行動指針。 | 被害を最小限に抑え、業務の継続や早期復旧を図るための長期的・戦略的な計画。 |
対応範囲 | リスクごとに作成される(例:地震、水害、感染症)。 | オールハザード・アプローチ(全災害対応型)で、原因を問わず「被害の結果」に焦点を置く。 |
発動基準 | 発災または予兆の後に参照する。 | 災害マニュアルに沿った初期対応後、業務の中断または中断しそうなレベルに至った際に発動を検討する。 |
BCPは、災害対応マニュアルによる初動対応ではパフォーマンスが復旧せず、訪問看護サービスの提供自体が危ぶまれる事態(例:スタッフの7割が被災した、移動手段が水没したなど)において、代替手段を用いて業務を継続するための計画です。
さらに、BCPは策定して終わりではなく、組織内に浸透させ、継続的な改善を行う「業務継続マネジメント(BCM)」として運用されることが重要です。
(参考:自然災害発生時における業務継続計画(BCP)|一般社団法人全国訪問看護事業協会)

BCPを実効性のあるものとするためには、厚生労働省の専門家委員会が推奨するプロセス(8ステップ)に沿って、平時から考え、有事の選択肢を増やすことが最も重要です。
BCP策定の柱となる「原点」を決めるステップです。
目的の設定
自事業所が実現したい状態(例:利用者のいのちと生活を守る訪問看護の提供を途切れさせない)を言語化します。
基本方針の決定
目的を実現するための基本的な考え方を明確にします。特に、「スタッフのいのちと安全を最優先にする」ことが、訪問看護事業所の基本方針として重要視されています。
体制の構築
BCPの策定、管理、発動、見直しを行うための体制(例:災害対策本部長、BCPリーダー、代行者など)を構築します。BCPには経営的な判断も含まれるため、基本的にトップダウンで検討されます。
遭遇する可能性のある「リスク」の頻度と影響を明確にし、平時からの備えを検討します。
リスクの洗い出し
地震、水害、感染症といった自然災害(天災)だけでなく、停電や火災などの技術的リスク(事故)、サイバーテロや交通事故などの人為的リスク(人災)を含む、あらゆるリスクを抽出します。地域のハザードマップや災害史の分析も重要です。
リスク値の算出
リスクが起きた際の「影響度」と、対策の度合いを示す「脆弱性」を評価し、リスク値(影響度 × 脆弱性)を算出します。このリスク値が高いもの(例:9点以上)から優先的に対策を講じます。
現状の把握
建物の状況、備蓄品の有無、スタッフの通勤困難度や家族の状況などを把握しておき、有事の出勤可能人数を想定できるようにします。
リスク発生直後の行動を定めるステップです。これはBCP発動前の初動活動に該当します。
アクションカードの作成
地震や火災など、突発的に起こるリスクに対しては、災害対応マニュアルから必要な行動をA4サイズ1枚程度に簡潔にまとめた「アクションカード」を作成し、職員が常に携帯することを推奨します。
安否確認の優先度設定
人命に関わる医療機器使用者(人工呼吸器、HOTなど)だけでなく、独居や老々介護など、「協力者を得て本人の安全を守ることが困難」な利用者(精神疾患、認知症利用者など)の安否確認の優先度を高く設定することが重要です。
緊急時に「何を継続し、何を休止するか」を明確にするプロセスです。
通常業務の棚卸し
日々の訪問看護業務に加え、記録作成、請求業務、物品管理、教育研修、マネジメント業務など、全ての業務を洗い出します。
業務の分類
洗い出した業務を以下の3種に分類します。
優先業務:利用者の生命維持や事業継続に必須の業務(例:臨時・緊急訪問、日々の記録)。
縮小業務:業務内容を縮小・変更することが可能な業務(例:サービス担当者会議の一部、報告書作成)。
一時休止業務:一時的に休止が可能な業務(例:所内会議、定例研修、集金業務)。
ボトルネックと代替手段の検討
優先業務を継続する上で妨げとなるリソース(ヒト、モノ、カネ、情報、移動手段など)のボトルネックを特定し、その代替手段(例:スタッフが不足した場合のテレナーシングや他事業所への代行依頼)を検討します。
Step 4までの分析を基に、業務継続のための具体的な戦略を立て、BCPを文書化します。
エスカレーション・ロジックモデルの採用
ヘルスケア領域では、目標復旧時間(RTO)のみに依存せず、被害の重大性(スタッフの出務不能割合、移動手段の支障度など)によって緊急事態を複数のステージ(例:ステージ1~4)に分類します。
ステージに応じた戦略の決定
被害レベルに応じ、自機関で対応するのか(ステージ2)、外部連携により対応するのか(ステージ3)、あるいは事業の中止を検討するのか(ステージ4)という戦略を明確にします。
文書化(BCPサマリー)
有事の業務継続計画と、それを実行するために必要な「平時からの備え」を一覧でまとめ、文書化します。
BCPを「作って終わり」にしないための継続的な取り組みです。
BCM(業務継続マネジメント)
策定したBCPを組織全体に浸透させ、演習・評価・見直しというPDCAサイクルを回し続けるプロセスです。
訓練・演習の実施
シミュレーション訓練(地震、水害、感染症など)を定期的に実施し、BCPが現場で実効性を持つか評価し、課題を抽出します。
連携型 BCP/地域 BCPの策定
小規模な訪問看護事業所にとっては、自施設のBCPだけでは対応が困難なため、近隣の事業所や行政との相互協力協定(連携型 BCP)地域 BCPへと発展させ、地域の総力戦体制を築くことが強く推奨されています。訪問スケジュール自動作成クラウド『ZEST』の導入で災害時でも即座に修正スケジュールを作成可能!
実効性を高めるための具体的な対策とデジタル化の活用
災害時の対応においては、具体的なアクションプランと、それを支えるデジタル技術の活用が不可欠です。
課題 | 具体的な対策とデジタル化の活用 |
|---|---|
事務所倒壊・浸水による業務中断 | 情報のクラウド保存:スケジュール、利用者情報、BCP文書などあらゆる情報をデータ化し、Googleドライブなどのクラウドサービスに保存することで、事務所に行かなくてもアクセス可能にする。 |
スタッフ不足時の利用者対応 | 利用者の優先度(トリアージ)設定:稼働スタッフが減少した場合に備え、事前に「絶対に訪問しなければいけない利用者」「1〜2日遅れても対応可能な利用者」などに分類し、優先度の高い方から訪問できるよう準備する。 |
スタッフの安否確認と情報共有 | 安否確認システムの導入:メール、LINE、専用アプリなど複数の連絡手段に対応し、通信障害に強い強固な災害対策(冗長化など)が講じられた安否確認システムを活用する。 |
迅速なスケジュール組み換え | クラウド型訪問スケジュール自動作成ツール:スタッフの稼働状況や利用者の優先度を入力するだけで、最適な訪問スケジュールを自動で作成・修正できるツールを導入する。これにより、交通状況を考慮した直行直帰体制の実現も可能となる。 |
通信障害への備え | 複数手段の確保:固定電話だけでなく、SNSやショートメール、災害伝言板など、複数の連絡手段を確保し、スタッフが使えるように訓練しておく。また、携帯電話などの充電のための非常用バッテリーを準備する。 |
安否確認システムは、大規模災害が発生した場合でも、データセンターの分散化やネットワーク環境の冗長化により、従業員の安否を素早く確認できるため、BCPの有効性を高める上で非常に有効なツールです。

ここまで、BCPをより実用的なものにするためのポイントをご紹介しました。災害発生時は、スタッフや利用者さんの安否確認や交通状況の確認、物資の状況把握等、通常以上の仕事をこなさなければいけません。普段と異なる状況下で、交通状況を気にしながらできるだけ多くのご利用者さんを訪問するのは至難の業だと考えられます。そこで、災害時でも通常通り使用することができ、利用者さんの優先度とスタッフの稼働状況を入力するだけで最適な訪問スケジュールを作成できる、訪問スケジュール自動作成クラウドの『ZEST』をご紹介します。
『ZEST』は最適な訪問スケジュールを自動作成可能なツールとなっております。ここまで記載してきたBCP策定時のポイントを下記のように網羅しております。
・万が一事務所に行くことができなくなってしまってもクラウドであるためスマホやタブレットから操作して訪問スケジュールを作成することが可能です。自宅にいながら利用者さんの住所やケアの内容、訪問ルートまで確認することができます。
・一部のスタッフが出勤できなくなっても、簡単にシフト調整ができ、出勤可能なスタッフのみの最適な訪問スケジュールの作成が可能です。また、スタッフの皆さまもZESTにログインいただくだけで今日のルートがわかる為、直行直帰も可能です。
・全てのご利用者さんのところへ訪問できなくなってしまっても、ご利用者さんの提供サービス・提供頻度等全体を俯瞰して簡単に調整が行えます。
もう少し、どのような対応が可能になるかを見てみましょう。
一部のスタッフの方が出勤できなくなってしまった場合、『ZEST』なら簡単にシフトの調整が可能です。下記は『ZEST』の実際のシフト画面になります。出勤が難しくなってしまったスタッフを下記のように一括変更することが可能になります。
また、『ZEST』にはサービス提供票をデジタルに落とし込んだような画面もございます。こちらの画面ではご利用者さん・提供サービス・訪問予定日が一覧になっている為、全体を俯瞰して調整が可能になります。緊急度の高くないご利用者さんがいれば、「1」とたっているところを調整いただくだけで、訪問予定を変更することができます。
このように、シフト・ご利用者さんの訪問予定を調整した後、クリック1つ押していただくだけで、数十秒で訪問スケジュールを作成することが可能になります。
『ZEST』はクラウドであるため、利用者さんやスタッフの情報はインターネット上に保管されています。さらに、弊社は万全のセキュリティ体制を整えており、2023年12月にはGCERTIにて情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)の国際規格「ISO/IEC27001:2022」の認証を受け、2024年4月には厚生労働省・経済産業省・総務省が提唱する、医療情報システムを利用する医療機関または開発・運用する情報処理事業者が準拠すべき『3省2ガイドライン』に対応しております。その為、IDやパスワードを使って日本中どこからログインしても安心であり、複数事業所などをお持ちで、広範囲をカバーしている場合は被災地以外のエリアからサポートも可能です。
また、災害時による通信障害など心配の方もいらっしゃるかと思います。ですが、災害による通信障害は基地局の停電に起因することがほとんどです。停電になった場合、エリアを広域にカバーする基地局は自家発電設備の起動により24時間程度は稼働し、通信障害が起きないような対策が施されているケースがほとんどになります。災害発生後、まずご利用の通信機器が電波を捉えているかを確認し、捉えている場合にはBCP対策に則りスケジュール等の調整を実施し、その画面を写真に収めていただくことで、その後に停電を通じた電波障害が発生してしまった場合にも対応することが可能になります。
訪問看護におけるBCP策定は、2024年4月から義務化されており、2025年4月からは未策定による介護報酬の減算が適用されるため、待ったなしの状況です。
BCPの目標は、医療・介護を提供する機関としての強靭な再起力(レジリエンス)を高めていくことであり、災害は人の想像を超えてやってくるため、「想定外の事態が存在することを想定しておく」ことが極めて重要です。
策定したBCPは、自施設の理念や平時の業務のあり方と連動するものであるため、まずは公的な雛形(全国訪問看護事業協会や厚生労働省から公開されている)を活用し、実現可能な計画を立案し、継続的に改善していくことが求められます。
「平時に考え検討することで、有事の選択肢を増やす」という視点のもと、この機会にBCPを策定し、スタッフ、利用者、そして地域住民のいのちと暮らしを守る体制を構築しましょう。
ZESTでは毎日無料オンライン説明会を行っておりますので、ご興味がございましたら是非お申込みください。
お役立ち情報の他に無料セミナーなどを行っております。実際に『ZEST』を導入して業務効率化に成功している事業所の経営者にご登壇いただくセミナーもございますので、是非ご参加ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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